2019年の日経平均株価は2万3656円62銭で取引を終え、年末終値としては1990年(2万3848円71銭)以来29年ぶりの高値となりました。夏頃までは米中貿易摩擦激化への懸念から2万円割れギリギリの水準まで落ち込みましたが、欧米中銀が金融緩和に踏み切ったことや米中協議の歩み寄りによって、年末にかけて高値を更新しました。
しかし、今年に入って米軍がイランのソレイマニ司令官を殺害したことにより米国のイランの対立が深刻化。中東情勢の地政学リスクが高まっています。この記事では2020年の世界景気や株式市場はどうなるのかについて解説します。
2020年の株式市場は前半高く後半失速へ
2020年の日本株は、前半堅調なものの後半失速する可能性が高いと見ています。前半は、世界各国の金融緩和の効果が続くことや、11月3日に大統領選を控えるトランプ大統領が、支持率向上のために景気政策をだすと考えているからです。
また7月の東京オリンピック・パラリンピックで訪日需要の高まりも期待できます。ただ、問題はその後。東京オリンピック・パラリンピックという宴が終わります。2008年は北京オリンピックが8月8日から24日まで開催。それから約1カ月後の9月15日にリーマン・ショックが起き、世界的な金融危機が発生しました。
もちろん、当時と状況は異なりますが、2019年も相場を振り回してきた米中貿易摩擦は、トランプ氏が再選されれば目先の景気への影響を心配する必要がなくなり、ふたたび中国との対立姿勢を強めると見られています。
また、民主党のエリザベス・ウォーレン議員にも注意が必要。以前から富裕層税導入や金融規制強化といった企業収益を圧迫しかねない政策を掲げており、同氏が大統領になれば、マーケットは大混乱になる可能性があるからです。
NYダウや日経平均株価は、6月ごろに高値をつける可能性があるものの、年後半は注意が必要です。とくに米大統領選挙を控えた9~10月頃には、買い手控えから急落リスクもあると見ています。
次に、日米の景気動向はどうなっていくのかを見ていきましょう。
国内の景気動向
2020年の国内景気は、2019年10月の消費増税の影響を見極める必要があります。増税の影響は直接大きくないと言われているものの、企業の生産活動や個人の消費行動に力強さはありません。
また消費税増税にあわせて、2019年10月から「キャッシュレス・消費者還元事業(ポイント還元事業)」がスタートしました。事業対象の店舗で「キャッシュレス」で支払うと、最大5%のポイント還元が行われます。ただ、期限は2020年6月まで。この期限以降に消費が落ち込むのではないかという懸念もあります。
日本の景気拡大期間は戦後最長を更新していると考えられますが、実質国内総生産(GDP)の伸び率は1.2%程度で、戦後第2位の「いざなみ景気」の1.6%、3位の「いざなぎ景気」の11.5%に及ばずに、力不足感があります。
景気後退は「いつ訪れるか」という局面になっています。2020年に景気後退が起きなくても、2021年以降に懸念があれば、株式市場では2020年の半ば以降に折り込みにいく(株価下落)可能性があります。
米国の景気動向と金融政策
2020年は景気の持続性が問われる1年になります。米国経済は2019年7月に景気拡大11年目に突入。NBER(全米経済研究所)に記録が残る1854年以降で過去最長の拡大記録を更新しています。
2020年も雇用や所得環境は堅調で、GDPの7割を占める個人消費が下支えとなる形で景気拡大は続くでしょう。ただ、世界経済は、循環的に成熟局面に入っています。米中貿易戦争、中国の経済減速などを背景に世界的に製造業の不振が続いているからです。
ただ、2019年はFRB(米連邦準備制度理事会)による3度の予防的利下げで、米景気の軟着陸が実現しました。その結果、NYダウは12月に過去最高値を更新しています。
2020年も2%弱の経済成長率となり、現在の緩和的な金融政策が続くとの見方が強まっています。実際、12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、参加者17名のうち13人が2020年の政策金利について横ばいを予想。0.25%の利上げが4人で、利下げはいませんでした。2020年は、利上げも利下げも難しいだろうと考えています。
2020年の最大のイベントは、米大統領選。米国第一主義とディール外交で世界中を振り回してきたトランプ大統領が再選されるのか、それとも民主党が政権を取り戻すのかが注目されています。
ただ、世界経済を下押しする最大の要因と考えられているのは米中の通商問題ですが、共和党・民主党ともに対中強硬策で、米中の貿易戦争は収まりそうにありません。大統領選前のトランプ大統領も、対中貿易戦争は一時休止ですが、政権維持のために票目当ての対中圧力は続くでしょう。
米中通商摩擦が激化すれば、企業や消費者のマインドが悪化し、経済への影響が拡大することが考えられます。株価も下落し、マインドがされに悪化すれば、米国でもリセッション入りが見えてきます。
2019年の8月14日に米国債市場で長短の金利が逆転する「逆イールド」が起こり、NYダウは800ドル下落しました。逆イールドは景気後退の予兆とされるからです。
ただ、1988年以降に逆イールドは3回発生していますが、逆イールド発生から景気後退局面に入るまでは、過去1~2年要しています。その経験則からいうと、2020年後半から2021年後半にかけては注意が必要ということになります。
欧州経済
欧州経済で最大の関心ごとは、イギリスのEU(欧州連合)離脱です。2019年12月の総選挙で、与党保守党が過半数の議席を占めたことから、EUと合意した離脱案が議会で成立し、イギリスは2020年1月末にEUから離脱することになります。
ただ、EUから離脱した後も2020年末までの移行期間が設けられています。この間、イギリスはこれまで通りEUの規則に従い、分担金も拠出します。
移行期間が設けられているのは、新たな自由貿易協定(FTA)を結び、離脱後の関係を構築するためです。ジョンソン首相は、移行期間を2020年末から延ばさない方針です。それまでに通商交渉がまとまらなければ、実質的に「合意なき離脱」と変わらない状況になります。
EUがこれまでFTA締結に要した期間は最短でも4年。わずか11カ月でFTAが締結できるとは考えにくく、国境を超える物流の混乱は高まります。そうなれば、景気に下押し圧力がかかることになるでしょう。
欧州経済のけん引役のドイツ経済の減速も続いています。2019年11月14日に発表された第3四半期のGDP(国内総生産)速報値は前期比0.1%増となり、なんとかリセッション(景気後退)を回避できましたが、厳しい状況です。
貿易依存度の高い中国経済が米中貿易摩擦により鈍化していることや、環境規制の面から主力の自動車産業が不振であることが影響しているからです。
米中が一部合意に達したことは明るい材料ですが、一時休戦という見方も多く、イギリスの欧州離脱を巡る混乱とともに注意が必要です。
中国経済
米中貿易摩擦の影響で、中国経済は減速局面が続いています。中国国家統計局が2019年10月18日に発表した7~9月期のGDP(国内総生産)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前年同期比6.0%増。中国の四半期ベースの成長率としては、記録のある1992年以降でもっとも低い水準となりました。
2019年は米中交渉がスムーズに進んだとはいえず、追加関税の影響により中国景気は鈍化しました。米中第一合意が2020年の1月に正式な文書化されることになったことは明るいニュースですが、これはあくまでも休戦状態。
11月の米大統領選でトランプ大統領が再選されれば、対中姿勢を強める可能性があります。その後の交渉で、習近平国家主席が譲歩せずに妥協点を見いだせなければ、成長率のさらなる鈍化が懸念されます。
中東情勢
2020年の米国株式市場は、2日の取引で主要3指数(NYダウ・S&P500・ナスダック総合株価指数)がそろって史上最高値を更新しましたが、3日の取引では米国がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したと発表したことで、中東の地政学リスクが高まり、NYダウは一時368ドル安まで下落しました。
米国とイランの対立は最近始まったわけではありません。イランはもともと米国の中東戦略の要でしたが、1979年のイスラム革命後は急進的な反米国家となりました。米国はイラク、サウジアラビアと組んでイランを封じ込めようとしましたが、その後イラクとも対立して2003年のイラク戦争へとつながりました。
中東でイランの勢力が拡大する中、2015年のオバマ政権時代にイラン核合意が成立。イランの核技術開発を制限する一方で米国や欧州はイランへの制裁を緩和しました。
しかし、2017年に就任したトランプ大統領はイランとの核合意を全面否定。一方的に核合意から離脱したあとに強力な制裁を発動しました。
そして経済的に追い詰められたイランは、制裁解除を求めてアラムコ石油施設などへの攻撃により、米国に揺さぶりをかけていたのです。実際に戦争にまで発展するという見方は少ないものの、中東情勢の緊迫化は今後も世界景気や株式市場の重しとなるでしょう。
為替相場・ドル円の見通し
景気や株式市場に影響を与える為替市場にも注目しています。とくにドル円は2018年に年間値幅が9.99円と10円を割り込みましたが、2019年も7.94円と過去最低を更新しました。
金融政策の不透明感や米中貿易摩擦といった先行き懸念から、方向感の定まらない展開が続いているのです。2020年はFRBが政策金利であるFF(フェデラルランド)レートを1度も変更しないと見られています。
また、日銀の金融政策も現状維持の可能性が高く、金利差での動きは期待できません。また、過去に比べるとドル円相場は急激な円高に進みづらくなっています。世界経済の先行き不透明感が高まると、安全資産として円だけでなくドルも買われるようになっているからです。
2019年の、ドル円相場の値動きが小さくなる原因となりました。ただ、2020年もイギリスブレグジットの行方や米中貿易摩擦の激化といった懸念材料があります。とくに米中貿易摩擦は、両国が部分合意に達し、一部関税の引き下げや新たな関税の先送りをしたものの、すべての分野で中国が妥協することは考えられません。
また、中国の米国からの農産物の拡大が予定通りに進まなければ、再び米国が中国への関税を引き上げることもあり得ます。そうなれば、市場はリスクオフとなり、安全資産である円が買われる可能性が高くなります。円は買われやすい地合いになるでしょう。
現在は、円と同時にドルが買われる地合いですので急激な円高はありませんが、米中貿易摩擦激化で急激なリスクオフが進むと円高が進行するリスクがあります。
ポイントは2019年安値の104.90円。この水準を割り込むと100円が意識されてきます。100円割れが視野に入ってくると、輸出企業の収益悪化による日本経済への悪影響が懸念され、株価も2万円が意識される展開になるでしょう。
まとめ
2020年の前半は、各国の金融緩和による効果が続くことや、東京オリンピックによるインバウンド需要から、日本の株式市場は堅調な地合いになると予想しています。
しかし、年後半からは米大統領選を控えて積極的な買いが控えられるほか、米中貿易摩擦の激化により不透明感が高まるでしょう。とくに日本の景気や株式市場にとって影響の大きいドル円相場に注目しています。
2019年の安値104.90円を割り込むと、100円割れが視野に入ってきます。100円割れは輸出企業に大きな痛手となり、日経平均株価は2万円が意識される展開になるでしょう。2020年後半は下落リスクに警戒が必要です。
ただ、インデックスファンドなどで積立投資をしている方は、株価が下がった時に口数を多く買うことができるので、積立投資を続けるようにしましょう。
株や日経平均株価やTOPIXなどのETFを保有している投資家は、大統領選挙前に売却することも検討し、秋以降の安くなったときに仕込むのも手です。また、金などの安全資産もリスクヘッジとして保有することもおすすめです。
ただ、なかなかベストのタイミングで売買するのは難しいと感じる投資家も多いのではないでしょうか。そういう人は、独立・中立的な立場から資産運用のアドバイスを行う専門家であるIFA(独立系フィナンシャル・アドバイザー)に相談してみてはいかがでしょうか。