資産運用をしている個人投資家の多くが、実は損失を出しています。
例えば2018年に金融庁が投資信託を販売する銀行に実施した調査によれば、実に約46%の個人投資家が損をしているということがわかっています。
また投資の世界では、長い間「個人投資家の8〜9割はマイナス運用になっている」と言われ続けています。
こうした状況の原因は様々で、そもそも選定する投資商品を間違えていることや、銀行側が手数料が高いだけで利益が出そうもない商品を勧めていることなどが挙げられます。
しかし「個人投資家側が買い方(契約方法)を間違えている」というのも、大きな要因の一つです。
どんなに利益の出る商品を購入できていても、ここを間違っていると本来生まれるはずの利益が生まれないだけでなく、逆に損失につながる危険さえあります。
このリスクを回避するだけでも、資産運用における失敗の可能性を引き下げることが可能です。
そこで、ここでは資産運用で失敗する人がやってしまいがちな買い方の代表例を3つ解説します。
資産運用の失敗リスクを事前に回避したい人はもちろん、すでに資産運用はしているがどうにも成績が振るわないという人も、ぜひ確認してもらえればと思います。
配当型の商品を選択してしまう
配当型とは、生まれた利益を毎年配当として手元に振り込まれる契約の形です。例えば元本100万円で毎年5%の利回りがあれば、毎年5万円が振り込まれる計算になります。
投資を始めたばかりの初心者は、この「年間数万円の配当」に惹かれてしまいがちです。銀行をはじめとする金融機関の担当者もそれを知っているため、積極的にこちらの契約を勧めてきます(※)。
商品タイプ | 生まれた利益の使い方 | 30年後の運用結果 | 向いている人 |
配当型 | 個人投資家の手元に振り込まれる。 | 元本100万円を利回り5%で運用した場合、
100万円+(毎年5万円×30年)=250万円 |
配当だけで生活できるほど、すでに資産がある人 |
再投資型 | 元本に組み込まれ、利益を足した金額で運用される。 | 元本100万円を利回り5%で運用した場合、
約432万円 |
長期的視点で数千万円以上の資産を形成したいと考えている人 |
しかし上表を見ればわかるように、30年後の運用結果を比べると、生まれた利益を元本に組み込んで運用していく再投資型の方が圧倒的に資産の増加幅が大きいことがわかります。
もちろんすでに1億円の資産があって、毎年5%で運用するだけで500万の年収が手に入るという人であれば、配当型で金融商品を買っても十分メリットは得られます。
ですが「30年後の自分のために今から資産形成を始めなければいけない」という人にとっては、配当型による資産運用では悪い意味で目的とかけはなれた結果になってしまうのです。
(※)金融機関が勧める商品の中には、「利益は再投資するが、一部が配当としても出る」という一見再投資型のように見えてそうではない商品や、「特別配当」といって元本割れをした場合には元本を削って配当を出すという、資産形成の観点からは本末転倒なシステムを採用している商品もあります。
そのため、金融機関が勧める商品にはくれぐれも注意が必要です。
元本が小さすぎる
65歳で定年退職し、厚生年金をもらいながら夫婦2人が85歳まで生きる場合に、最低限必要な資産は3,000万円とされています。
これを基準として、35歳の時点で30年間かけて資産形成をする場合を考えてみましょう。
<ケース1:コツコツ貯金をして将来に備えている人>
社会人になってからコツコツ貯金をしたおかげで、今手元に目標にしていた500万円がある。これを資産運用に回して、これからは好きにお金を使うんだ。
<解説>
受け取っている給与にもよりますが、500万円を貯蓄するのは確かに大変だったかもしれません。だからこそ、目標額に達してからは自由にお金を使いたいと思うでしょう。
しかし元本500万円の資産を利回り5%で運用した場合、再投資型の商品でも30年後に2,160万円にしかなりません。
つまり今手元にある500万円を運用するだけでは、3,000万円には届かないのです。
<ケース2:少額の積立投資を始めている人>
無理をして貯金をするのは自分には向いていない。だから毎月2万円を積み立てて、少しずつ資産を形成する積立投資信託を始めた。
毎月の額はそんなに大きくないけれど、ちょっとずつお金も殖えるみたいだし、これで老後も安心だろう。
<解説>
資産形成の形は人それぞれで、積立方式が向いている人はその方式で資産を形成するのがベストです。毎月2万円の積み立てであれば、30年後には元本も720万円になっているのでケース1よりも多くなります。
しかしこの方式で30年間、利回り5%で運用し続けられたとしても、約1,637万円にしかなりません。やはり3,000万円には届かないのです。
つまり、目標に対して元本が少なすぎると、目標を大きく下回る結果にしかならないのです。ケース1とケース2では利回りを5%で計算しましたが、実際のところ国内の投資信託などの金融商品では、ここまでの実績を出すのは至難の技です。
そのため2つのケースにおける最終的な資産額はもっと少なくなります。
たとえ少なくても、全くないよりは圧倒的にマシです。しかし将来必要になるお金から逆算して、どれくらいの元本を用意するべきかを考えなければ、そのお金が必要になった時に頭を抱えることになります。
短期解約を繰り返す
「喜んで10年間株を持ち続ける気持ちがないのなら、たった10分間でも株を持とうなどと考えるべきですらありません」
これは投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェット氏の言葉です。つまり金融資産は基本的に長期にわたって運用するものであり、損失や利益に一喜一憂するようなものではないということです。
投資を始めた1年目にプラス10%になることもあれば、その次の年にマイナス5%になることも、場合によってはマイナス15%になることもある。
しかし数十年の長期的視点で見た場合には、緩やかにプラス8%に落ち着く……これが資産運用の原則です。
しかし資産運用で失敗してしまう人の中には、
- 100万円を一括投資した商品がその年の不景気でマイナス10%の運用結果となり、慌てて解約して他の商品に乗り換える。
- 銀行などから「○○さんが買った商品は去年マイナスでしたけど、こちらの商品ではプラスでした。こちらで契約し直しますか?」と言われて、そのまま乗り換えてしまう。
といった短期解約を繰り返す人が少なくありません。確かに以下の3つのパターンに当てはまる場合は、短期解約もやむを得ません。
このような場合は、余計な損失を出さないためにも早い段階で解約するべきです。
しかしそれ以外の場合は、基本的に短期解約はNGです。新しい商品を買うとなればそのための購入手数料がかかり、解約するにも解約手数料がかかります。
金融機関が買い替えを勧めるのはこうした手数料を狙っているだけで、本当にこちら側の利益を考えているのではありません。
ある時期に損失が出て「本当に大丈夫だろうか?」と不安に思ったとしても、じっくり考えて「これだ!」と思ったものなのであれば、じっと我慢するのが正しい投資家の姿勢なのです。
まとめ
配当型の商品も、配当だけで生活できるような人であれば、十分選択肢に入る商品です。
余力がないのであれば、少ない元本で資産運用を始めなければならないというのもいたしかたありません。また、投資商品によっては短期サイクルで売買を繰り返すのが正解になる場合もあります。
しかしあくまで「数十年単位の長期的視点で数千万円以上の資産形成をする」という目標を掲げるのであれば、ここで挙げた3つの買い方は全てNGです。
配当型の商品や少なすぎる元本は、運用益の縮小につながりますし、短期解約の繰り返しは手数料による損失を増やす一方だからです。
これから資産運用を始める人は事前の注意を、そしてすでにこれらのミスを犯してしまっている人は、できるだけ早い段階での運用方法の見直しを強くおすすめします。