この記事では、ヨーロッパ中で使われる通貨「ユーロ」の誕生から現在までの歴史を紹介していきます。
ユーロは、EU(欧州連合)の加盟国でつかえる通貨で、アメリカ・ドルの次に取引に利用されている国際的な通貨です。
ユーロは、導入しているヨーロッパ各国を合計すれば世界第2位の経済圏になるため、世界的な影響力を持っています。
現在はユーロを導入しているヨーロッパの国々でも、もともとは、一国につき一つの通貨だけが運用されていました。
では、なぜヨーロッパ各国は自国の通貨ではなく、ユーロを導入したのでしょうか?
この記事では、
「なぜ通貨ユーロはヨーロッパ中で使われているの?」
「ユーロが誕生した理由を知りたい」
「ユーロの歴史を知りたい」
このような思いを持っているあなたに向けて、以下の内容を紹介していきます。
- 通貨「ユーロ」とは?
- ユーロが導入された理由
- ユーロを導入するメリット
- ユーロの歴史
この記事は8分くらいでカンタンに読めて、ヨーロッパ諸国で通貨ユーロが使われている理由や、誕生から現在までの歴史ついて十分に知ることができますので、ぜひご一読ください。
歴史を知る前に:そもそも通貨「ユーロ」とは?
ユーロはEU(欧州連合)に加盟している複数の国で使われている通貨です。
ヨーロッパ各国の政治・経済面での統合を目指して、加盟国の間での相互協力強化のために設立された期間
2019年現在は、28カ国が加盟している
通貨ユーロは現在、EUに加盟している19カ国で、自国の通貨として導入されています。
また、ユーロは世界でも屈指の取引高をほこる通貨として、市場に流通しています。
実際に、外国為替市場で取引されている通貨の1日あたりの平均取引高シェアでは、ユーロはアメリカ・ドルの43.8%に次ぐ15.6%でした。(出典:三井住友アセットマネジメント)
ユーロは現代の世界でこそ重要な地位にある通貨ですが、はじめて導入されたのは1999年のことでした。
ユーロとは、まだ、導入されてから20年ほどしか経っていない新しい通貨なのです。
それ以前のヨーロッパでは、各国が独自の通貨だけが流通していました。(ドイツの通貨→マルク、フランスの通貨→フランなど)
現代のヨーロッパ諸国では、各国の通貨もありますが、メインでつかわれている通貨はユーロです。
次からは、なぜヨーロッパ各国が、ユーロを導入したのかを解説していきますね。
歴史を紐解く:EUの結成とユーロが導入された理由
ここからは、通貨ユーロが導入された理由と、ヨーロッパの通貨を統合したEUの結成理由について解説していきます。
紹介していく順番は、以下のとおりです。
- ヨーロッパ諸国どうしでの戦争を引き起こさないため
- 競争力があるヨーロッパ以外の経済大国に対抗するため
それでは、順番に紹介していきますね。
ヨーロッパの国どうしでの戦争を引き起こさないため
ヨーロッパ諸国がEU(欧州連合)を結成し、ユーロを導入した理由の1つ目は「ヨーロッパの国どうしでの戦争を引き起こさないため」です。
ヨーロッパではかつて、第一次世界大戦、第二次世界大戦と、2つの大きな戦争がおこりました。
ヨーロッパの国どうしで争いあった世界大戦で多くの人が犠牲になった反省から、第二次世界大戦の終了後に「2度と戦争を引き起こさないためにヨーロッパを統合しよう」という考えが生まれます。
そして数十年の時間をかけ、戦争を引き起こさない仕組みとして、EUと通貨ユーロがつくられたのです。
競争力があるヨーロッパ以外の経済大国に対抗するため
ヨーロッパ諸国がEU(欧州連合)を結成し、ユーロを導入した理由の2つ目は「ヨーロッパの国々よりも経済力のある大国に対抗するため」です。
ヨーロッパ諸国がEUという機関の発足や、統一通貨ユーロの導入を検討していた当時は、アメリカや日本という非ヨーロッパの経済大国が世界トップの市場規模をもっていました。
ユーロが発行されはじめた前後である、2000年のGDP上位5カ国のデータを見て、ヨーロッパ諸国と非ヨーロッパ諸国の経済規模のちがいを確認いきましょう。
ある国で一定期間内に生み出された財産・サービスの売上のこと
2000年当時のGDP上位5カ国ランキング
順位 | 国名(地域) | GDP |
1位 | アメリカ(北米) | 10.25兆ドル |
2位 | 日本(アジア) | 4.8兆ドル |
3位 | ドイツ(ヨーロッパ) | 1.9兆ドル |
4位 | イギリス(ヨーロッパ) | 1.6兆ドル |
5位 | フランス(ヨーロッパ) | 1.3兆ドル |
出所:国際貿易投資研究所 「国際比較統計 世界各国のGDP(上位60)」より
以上のように、ヨーロッパ最大の経済大国であるドイツでも、一国だけでは非ヨーロッパのアメリカ、日本には市場規模で大きな差をつけられていました。
アメリカ、日本のように国内の市場規模が大きな国は、自国だけで商売をしても、多くの利益を得られます。
しかし、ランキングに上がっているドイツ、イギリス、フランスのような国は、自国の国民だけを相手に商売をしては、十分な利益を生み出すことはできません。
そこで、経済・産業面で競争力の高い日米という上位2カ国に対抗するために、ヨーロッパ各国が協力して通貨を統一し、ユーロ圏=EU(欧州連合)という巨大な市場をつくることにしたのです。
次からは、通貨ユーロを導入することで生まれたメリットを、くわしく解説していきますね。
歴史を紐解く:ユーロを導入するメリット
ここからは、通貨ユーロを導入するメリットを解説してきます。
紹介していく順番は、以下のとおりです。
- 国家間取引の為替コストをなくせる
- EUへの投資を拡大できる
それでは、順番に紹介していきますね。
国家間取引の為替コストをなくせる
ヨーロッパ各国で通貨を統一する1つ目のメリットは「国家間取引の為替コストをなくせること」です。
ユーロ導入以前は、ヨーロッパ各国が個別の通貨を使って近隣諸国と取引をしていました。
各国がもつドイツ・マルクやフランス・フランなどの個別の通貨で取引をするときは、つねに為替レートの影響を受けてしまいます。
外国為替市場で外国の通貨どうしを交換するときの交換比率
円/ドル、ドル/ユーロなど、交換する通貨の組み合わせでそれぞれ相場が存在する
例:1ドル=108.14円
自国の商品を売ったり、ちがう国の商品を買うときにも、為替レートの変動で通貨の価格が変化するので、他国との商売において、場合によっては利益を出せないこともあります。
しかし、ユーロを使っている国どうしでは、為替レートは変わりません。
ヨーロッパ各国は、通貨をユーロに統一することで、為替の変動のリスクを気にすることなく取引できるメリットを享受できるのです。
また、ユーロ使用圏内でなら、どの国と貿易しても変動リスクを気にせずに済むので、取引コストの削減ができ、企業の競争力も大きく向上します。
EUへの投資を拡大できる
ヨーロッパ各国で通貨を統一する2つ目のメリットは「EUへの投資を拡大できること」です。
ヨーロッパ一国の経済規模は現在、アメリカ、中国、日本という非ヨーロッパの大国には及びません。
しかし、統一通貨ユーロを使っているEU各国の市場規模は、合計すればアメリカに次ぐ大きさなります。
ユーロを導入することで世界第2位の巨大な経済圏となったEUは、多くの投資資金が集まる魅力的な市場になっています。
たとえば、EU各国の国有企業に対する外国からの投資は、2017年には、2007年比で3倍にも拡大しています。(出典:駐日欧州連合代表部)
ここまで、ヨーロッパ各国が通貨「ユーロ」を導入するメリットを紹介しました。
次からは、通貨「ユーロ」の誕生から現在までの歴史を順番に紹介してきますね。
ユーロの歴史
ここからは、EU(欧州連合)各国で使用されている通貨「ユーロ」の誕生から現在までの歴史を紹介してきます。
紹介していく順番は、以下のとおりです。
- ユーロ導入国の推移
- ヨーロッパを統合する最初の国際機関ができるまで【1945~1957】
- ユーロが導入されるまで【1957~2002】
- ユーロが導入されてから経済危機が起きるまで【2002~2009】
- 経済危機が起きてから現在まで【2009~2019】
それでは、順番に紹介していきますね。
ユーロ導入国の推移
以下がユーロ導入国の推移です。
導入年 | 国名 |
1999年 | ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、オーストリア、フィンランド、 スペイン、ポルトガル、アイルランド |
2001年 | ギリシャ |
2007年 | スロベニア |
2008年 | キプロス、マルタ |
2009年 | スロバキア |
2011年 | エストニア |
2014年 | ラトビア |
2015年 | リトアニア |
表を見れば分かるように、ユーロを導入している国は時代を経るごとに増加しています。
次からは、通貨ユーロの歴史を紹介していきますね。
ヨーロッパを統合する最初の国際機関ができるまで【1945~1952】
ここからは、第二次世界大戦からヨーロッパを統合するための最初の国際機関「欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)」ができるまでの歴史を紹介してきます。
ECSCの誕生は通貨ユーロの導入に関わってきます。
1945年に、全ヨーロッパを巻き込んだ第二次世界大戦が終了しました。
戦後に、ヨーロッパ各国(とくにフランス)のリーダーたちは、この大戦を引き起こしたドイツと、攻撃された近隣諸国が2度と戦争にならないためのしくみが必要だと考えます。
戦争を起こさないために、各国のリーダーたちが最初に計画したことは「ヨーロッパ各国がもつ石炭や鉄鋼を共同管理しよう」というものでした。
石炭は戦争でつかう兵器・工場を稼働させる燃料になります。
鉄鋼もまた、戦争でつかう兵器をつくる材料として必要なものです。
各国が保有する石炭や鉄鋼を、自分たちの国だけでなくヨーロッパ全体で共同管理することで、戦争目的での利用を禁止しようと判断したのです。
そして、1952年にヨーロッパ各国が保有する石炭・鉄鋼を共同管理する国際機関「欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)」が設立されました。
ちなみにECSC設立後の原加盟国は以下の6カ国です。
- 西ドイツ
- フランス
- イタリア
- ベルギー
- オランダ
- ルクセンブルク
この欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の設立には、ヨーロッパ諸国間で2度と戦争を引き起こさないことのほかに、以下の目的がありました。
- 資源を効率よく管理することでヨーロッパ全体の経済発展を促進させる
- ヨーロッパ諸国で協力して敵国ソビエト連邦からの侵攻を防ぐ
- 世界一の軍事・経済大国アメリカへの依存から抜け出す
以上のようなヨーロッパ諸国共通の目的から、ECSC設立後も、さらに欧州の統合を目指すしくみが次々とつくり出されます。
第二次世界大戦の終戦後の世界では、資本主義と共産主義という、2つの経済システムを導入する陣営で対立しました
この資本主義国と共産主義国の対立を「冷戦」と呼びます
冷戦期のヨーロッパ諸国も資本主義陣営と共産主義陣営に分かれて双方が対立します
当時、資本主義陣営に属していたECSC加盟国は、大国ソビエト連邦をはじめとする共産主義国からの侵攻に備える必要がありました
統一通貨ユーロもまた、以上の目的から導入されたものです。
つづけて、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が設立されてから、欧州統一通貨ユーロが導入されるまでの歴史を紹介していきますね。
ユーロが導入されるまで【1952~2002】
ここからは、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の設立後から、ヨーロッパで通貨ユーロが導入されるまでの歴史を紹介してきます。
ヨーロッパ諸国は、ECSCの活動が軌道に乗ったことをきっかけに、さらに経済全体を統合するための機関設立をすすめます。
1958年には、経済的な国境のないヨーロッパ共同市場をつくる機関「欧州経済共同体(EEC)」が設立されました。
欧州経済共同体(EEC)の設立には、以下の目的があります。
- 加盟国間の関税を撤廃する
- 加盟国ではない国からの輸入品におなじ税率の関税を設定する
- 各国の資本や労働力の移動を自由化する
EECの設立後、加盟国の経済はヨーロッパ以外の地域よりも大きく成長しました。
たとえばEEC加盟国のGDP総額は、1960年には1,883億ドルでしたが、1966年には3,220億ドルと、6年間で71%分も増加しています。
一方で、おなじ期間(1960年~1966年)のアメリカのGDPは、5,114億ドルから7,565億ドルと48%分しか増加していません。(出典:旧経済企画庁「昭和43年 年次世界経済報告」)
加盟国がアメリカを上まわる成長を実現した理由は、EECの結成で各国の分業化がすすんだからです。
たとえば、
- 西ドイツ→鋼鉄・自動車
- フランス→アルミ・事務機械
- イタリア→衣類・はき物・家庭用電気器具
以上のように、各国が得意な分野だけを専門的に生産した結果、それぞれの産業はライバル国よりも競争力をつけることができたのです。
なお、ヨーロッパの主要国であるイギリスは、かつて植民地だった地域や、アメリカとの関係を重視していたため、長い間EECには参加しませんでした。
しかし経済成長率がEECの方が圧倒的に高く、貿易で不利な立場となったイギリスは、1973年になり、ようやく加盟国になりました。
EECの成功により、自信をつけたヨーロッパ諸国は、より各国の統合をすすめる機関として、1967年に「欧州共同体(EC)」を設立します。
欧州共同体(EC)は、以下の3つの機関が統合されて誕生した機関です。
- 欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)
- 欧州経済共同体(EEC)
- 欧州原子力共同体(EURATOM)
欧州原子力共同体(EURATOM)は、1958年に設立されたEC加盟国の原子力を管理する機関です
ECの結成後の1970年代になると、アメリカ・ドルの信用不安をきっかけに、ヨーロッパ各国は「なるべくドルを使わずに、ヨーロッパ中で統一した通貨を導入しよう」という考えをもちはじめました。
1970年に、EC加盟国ルクセンブルクの首相ピエール・ウェルナーは、以下の内容が記載された「ウェルナー報告書」を提出して、欧州の通貨統合政策を具体化しました。
- 加盟国の為替相場を固定する
- 10年後に各国の通貨を統一する
この報告書の内容は1971年のEC議会で採決され、つづく1972年には、以下のようなしくみを持つ「スネーク制度」がEC加盟国で導入されます。
- 加盟国間の為替相場の変動範囲を上下2.25%以内におさえる
- すべての加盟国がドルとの相場を上下4.5%以内におさえる
しかし、1973年に起きたオイルショックで、ドルの相場が激しく変動したため、EC加盟国内の為替相場を2.25%に抑えることができなくなりました。
1973年に起きた第四次中東戦争の影響で、世界の主要な産油国であるアラブ諸国が、原油の減産と大幅な値上げを行ったことにより、輸入国が失業、インフレ、貿易収支の悪化など経済的な打撃を受けた事件
そして、オイルショック後には、イタリア、フランスなどがスネーク制度から脱退してしまいます。
ヨーロッパ主要国のリーダーたちは、オイルショック後の長期間にわたる為替相場の不安定化が、貿易取引を阻害させる原因になると判断します。
この事件の反省から、ECは西ドイツとフランスが主導して、1979年に以下のようなしくみを持つ欧州通貨制度(EMS)を発足させました。
- 加盟国間の為替相場の変動範囲をふたたび上下2.25%以内におさえる
- EC加盟国の中央銀行間の取引でのみ使われる独自通貨「ECU」を導入する
欧州通貨制度(EMS)の発足によって導入された独自通貨ECUは、それまで為替相場で活用されていたドルにかわって、ECの中央銀行間での決済レートをはかる基準になりました。
中央銀行限定の独自通貨ECUを使うことで、ECはアメリカへの依存から抜け出す目的を部分的に達成します。
アメリカ・ドル依存から抜け出しはじめた1980年代になるとECは、民間でも使われる本格的な統一通貨の導入を目指すようになりました。
冷戦が終結した1989年には、EC政策執行機関の委員長ジャック・ドロールを中心とした委員会によって、通貨統合に関する「ドロール報告書」が発表されます。
ドロール報告書の内容は、以下ものです。
段階 | 政策内容 | 実施期間 |
第1段階 | EC加盟国間のヒト・モノ・サービスの移動を自由化して、独自通貨「ECU」の民間利用を促進する | 1990年~1993年 |
第2段階 | EC加盟国の金融政策の運営を統一した欧州中央銀行制度(ESCB)を設立する(ただし、この段階では金融政策は各国の中央銀行が管理する) | 1994年~1998年 |
第3段階 | 欧州中央銀行(ECB)がEC加盟国の金融政策を統一して管理する | 1999年~現在 |
加盟国は、以上の内容が記載されたドロール報告書にそって、ECをさらに発展させたEU(欧州連合)の設立と、統一通貨ユーロの導入にむけた政策を実施しました。
そして、1993年に締結されたマーストリヒト条約によって、EC(欧州共同体)は解消され、より経済的・政治的な統合機能を強化したEU(欧州連合)が創設されます。
マーストリヒト条約の締結によってEU加盟国は、以下のような統合政策を実施していきました。
- 共通の外交・安全保障政策をもつ
- 各国の権限の一部をEUに移譲する
- 単一通貨を導入して加盟国の市場を統合する
以上のように、EU(欧州連合)となったことで、ヨーロッパ諸国の統合はすすみます。
そして各国の統合がすすんだ結果、1998年に加盟国の通貨発行など金融政策を管理する欧州中央銀行(ECB)が設立されます。
欧州中央銀行(ECB)が設立されたことで、ついに1999年、EU加盟国で流通する統一通貨「ユーロ」が発行されました。
1999年から3年間は統一通貨導入の移行期間とされ、2002年までは各国の独自通貨だけが流通していました。
2002年までは、ユーロの使用はまだ電子決済のみに限定されていたのです。
移行期間が過ぎた2002年から、正式に紙幣・硬貨版のユーロがEU加盟国で流通しはじめます。
ここまで、ユーロが導入されるまでの歴史を紹介しました。
次からは、EU加盟国において本格的に流通しはじめたユーロが、どのように発展していったのかを紹介していきますね。
ユーロが導入されてから経済危機が起きるまで【2002~2009】
ここからは、ユーロが本格的に導入された2002年から、ヨーロッパ全土を混乱におとしいれた欧州金融危機が起こった2009年までの歴史を紹介してきます。
EU(欧州連合)は結成後も、年々加盟国を増やしつづけたため、ユーロを導入した経済圏の規模自体も巨大化していきました。
合計すれば、アメリカに匹敵するほどの経済規模をもったEUと通貨ユーロは、やがて世界をリードする存在になると予想されていました。
しかし、EUと通貨ユーロの躍進は2000年代後半にストップがかかります。
そのきっかけは2008年に起きたリーマンショックと、2009年に起きた欧州金融危機でした。
リーマンショックと欧州金融危機後のEUとユーロは、長く混乱した時代をむかえます。
次からは、これら一連の金融危機がおこってから現在までの歴史を紹介していきますね。
経済危機が起きてから現在まで【2009~2019】
2008年におきたリーマンショックは、アメリカにある投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻したため世界中の株価が暴落した事件です。
リーマンショックの影響で、ヨーロッパの大手銀行も破綻の危機におちいり、EU加盟国も財政破綻のリスクを抱えました。
EU加盟国は、リーマン・ショックによって巨額の財政赤字を抱えてしまい、2009年に欧州金融危機を引きおこしてしまいます。
2009年におきた欧州金融危機の原因は、加盟国ギリシャが財政赤字の粉飾をしていたことが発覚したことでした。
このギリシャ危機のあとに、他のEU加盟国のポルトガル、アイルランド、イタリア、スペインなども、自力では財政状況を改善できないと判明します。
EU諸国の財政状況がよくないことから、外国為替市場でのユーロの価格は暴落しました。
EUは、欧州中央銀行(ECB)と国際通貨基金(IMF)の三者体制で財政難におちいった加盟国の再建に乗り出します。
1947年に創設された国際機関
加盟国の為替政策の監視や、国際収支が悪化した加盟国に対しての融資などを通じて、以下の目的を達成する役割がある
- 国際貿易の促進
- 加盟国の高水準の雇用と国民所得の増大
- 為替の安定
三者は、財政難におちいった加盟国を救済するために、5,440億ユーロを超える額を投資しました。
この資金援助をするためには、対象国にきびしい緊縮策を強制するという条件がありました。
緊縮策を指示した影響で、加盟国の経済成長率や雇用率は悪化していきます。
たとえば、欧州金融危機前の2008年には、EU加盟国ギリシャの失業率は7.75%でしたが、危機が起きた後の2013年には27.48%にも増加しました。(出典:在ギリシャ日本大使館)
EUが経済的に悪化する中、やがて投資家たちはユーロ圏の国債を売却し、他国の通貨へ投資しはじめました。
本来投資されるはずだった資金が他国に流れたことで、経済危機以降のEUは、現在までつづく長期的な経済停滞の時代に入ります。
通貨ユーロは、現在抱えている以下の問題から、将来性に疑問をもたれている状況です。
- EUからの離脱を主張する政治家が将来的に加盟国で政権をとるかもしれない
- 移民・難民問題でEU加盟国の社会が混乱している
- EUの規定にしばられて各国が独自の財政策をつくれない
- 現在進行形でイギリスがEUから離脱しようとしている
以上のような問題から、ユーロの信用は盤石とはいいきれず、短いスパンで価格が上下動しています。
ユーロは欧州金融危機以降、存在感を弱めており、今後は経済成長がいちじるしい中国やインドなどの新興国の通貨が影響力を強めていくと見られています。
現状の世界では、ユーロは投資にむいた強い通貨となる見通しは立っていない状況といえるでしょう。
まとめ
ここまで、以下の内容を紹介しました。
- 通貨「ユーロ」とは?
- ユーロが導入された理由
- ユーロを導入するメリット
- ユーロの歴史
通貨ユーロは、二度の世界大戦で疲弊したヨーロッパ諸国が、悲惨な戦争を繰り返さないため、そして、他の経済大国に対抗するためにつくられた通貨です。
ユーロを導入している国をすべて合わせると、世界トップクラスの規模をほこる経済圏になります。
そのため現在は、アメリカ・ドルに次いで世界で2番目におおく取引されている通貨として、重要な地位を占めています。
投資や世界経済の先行きを把握するためには、世界的に重要な通貨であるユーロの動向を知ることは、欠かせません。
投資に関心があるならば、ぜひユーロの動向を確認しておいてください。