今投資をしている、あるいは投資を検討している商品について、自分がなぜその商品を選んだのか、選ぼうとしているのか、その商品がどんな仕組みで運用されている商品なのか、第三者に説明することができるでしょうか。
交通ルールやエンジンのかけ方、アクセルやブレーキの操作方法を理解していない人が、安全に車を運転できないように、投資の基本的な仕組みを理解していない人が投資をすると、どうしてもリスクが高くなってしまいます。
しかし多くの個人投資家は、実は「よくわからないまま」金融商品を買ったり、売ったりしているんです。
ここではその事実を心理学の実験や過去の歴史などから明らかにするとともに、どんなことを勉強しておけばリスクを抑えたうえで投資ができるのかについて解説します。
人間は「よくわからないまま」意思決定をする
人間はそもそも「よくわからないまま」意思決定をする癖を持っていることが、多くの調査から明らかになっています。
その代表例として、アメリカで起きたオバマケア論争を取り上げましょう。
「医療費負担適正化法(通称:オバマケア)」は2010年に成立しました。
しかし2012年になって、国民に保険加入を義務づけるのは憲法に違反しているとして、アメリカ50州のうち26州が提訴。
一部の州での違憲判決を受け、政府側が最高裁に上告する騒ぎになったことがありました。
最終的には最高裁がオバマケアの主要な条項を支持する判決を出したのですが、その直後にシンクタンクが行なった調査によって、冗談のような事実が明らかになったのです。
シンクタンク「ピュー研究所」が行なったのは、最高裁の「オバマケアの主要な条項を支持する」という判決に対して、賛成か反対かというアンケートでした。
結果は以下の通りでした。
加えて同研究所は、最高裁判決がどのようなものであったかを質問しました。
すると正しい回答ができたのは回答者のうち55%だけで、15%は「最高裁はオバマケアを違憲だと判断した」と答え、30%は「わからない」と答えたのです。
36%の人が「最高裁の判決に賛成」、40%の人が「最高裁の判決に反対」と回答したにも関わらず、判決の内容を理解していたのは55%だけ……。
相当数の回答者がよくわからないまま回答をしていたことがわかります。
ちなみにこの1年後にアメリカのNGO「カイザーファミリー財団」が行った調査によれば、アメリカ国民の40%以上が医療費負担適正化法を法律だということさえ理解していなかったことが明らかになっています。
この2つの調査を見るだけでも、人間が驚くほど「よくわからないまま」意思決定をすることがわかります。
しかし私たちがこうした意思決定をするのは、政治的な場面だけではありません。ビジネスや経済でも同じです。
「よくわからないけど良さそう」が招いたリーマン・ショック
空前の世界同時金融危機を巻き起こしたリーマン・ショックも、個人投資家や企業の担当者、超一流の金融マンまでもが、こぞって「よくわからないまま」意思決定をしたからこそ起きた出来事でした。
詳しくは知らないと損するお金の歴史「リーマン・ショック」 を読んでいただくとして、以下ではその原因について見ておきましょう。
リーマン・ショックの直接の原因になったのは、リーマン・ブラザーズをはじめとする金融機関がデリバティブ(金融派生商品)の損失をすぐに計算できなかったことです。
なぜ損失を計算できなかったのか。
それはデリバティブの仕組みが、一流の金融マンでも把握できないほど複雑になっていたからです。
しかしなぜか彼らは「この商品は安全だ」と信じ、全世界で売りさばきました。
デリバティブを買った人たちも、仕組みは理解できなかったものの、「よくわからないけど、なんとなく良さそうだ」と考えて、大量に買い込んでいました。
ところがデリバティブは当時のアメリカの住宅バブル崩壊をきっかけに下落し始めました。
しかし前述の通り、いくら損したかは誰もわかりません。すると、
「あの人(あるいは企業)はデリバティブで大損しているかもしれない。お金を貸しても、返ってこないかもしれない」
と金融機関を含むみんなが考え始め、その結果として世界中で大混乱が巻き起こったのです。
金融商品を買う前に学んでおくべき3つのこと
理解しなくてもいいこと・理解しなきゃいけないこと
ここまで見てきたような例は挙げ始めればキリがありません。
オバマケア論争、リーマン・ショックといった規模の大きな例だけでなく、日常生活レベルの小さな例もたくさんあります。
確かに「よくわからないまま」意思決定をすると、いろいろな問題が起きます。
しかしだからといって、すべてについて「よくわかったうえで」意思決定をする必要はありません。
エンジンの仕組みをわかっていなくても、交通ルールと運転方法を知っていれば車を走らせることはできますし、コンピュータのプログラムができなくても、パソコンを使ってe-mailを打つことはできます。
つまり重要なのは理解しなければならないことを理解することなのです。
では資産運用における理解しなければならないこととは何なのでしょうか。
それはすなわち「金融商品の仕組み」「人生設計の考え方」「お金の歴史」の3つです。
購入する金融商品の基本的な仕組み
先物や株、債券など金融商品には様々な種類があり、それぞれに異なった仕組みがあります。
基本的な仕組みを理解していなければ、どれくらいのリスクがあって、どれくらいのリターンが期待できるのかも理解できません。
にもかかわらず、金融機関のすすめに従って「よくわからないまま」意思決定をすれば、思わぬ損失を抱えることになります。
投資信託なら投資信託の歴史を紹介!【誕生した理由から現在の仕組みまで】をはじめ、投資信託を買う前に知っておくべき「目論見書」の読み方などの記事で説明しているような基礎知識を身につけてから、意思決定をするべきでしょう。
お金にまつわる人生設計の考え方
資産運用は人生設計と深く関わっています。
50歳で早期リタイアするのであれば、相応の資産を作る必要がありますし、逆に75歳まで働き続けるのであれば、老後の生活資金は比較的少なくて済みます。
どんな人生設計にしたいのか。プラン通りに生きた場合にどれくらいの資産が必要なのか。
こうしたことを考えるためには、お金にまつわる人生設計の考え方を知っておかなければなりません。
お金の窓口でいえば、【投資の基礎シリーズ01】金融庁報告書「年金以外に2,000万円必要」は本当か?人生100年時代の資産設計とはや、【投資の基礎シリーズ02】「足りない老後資金」作りに有効な方法4つ!あなたにピッタリの資産形成方法はどれ?などの記事が参考になります。
お金に関する歴史
「歴史は繰り返す」とはよく言われますが、お金に関する歴史も同じです。
バブル経済一つとっても、今まで何度も繰り返されてきました。
- 1637年 チューリップバブル(オランダ)
- 1719年 ミシシッピバブル(フランス)
- 1720年 南海会社バブル事件(イギリス)
- 1915年 大正バブル(日本)
- 1986〜91年 平成バブル(日本)
- 1999〜2000年 ITバブル(アメリカ)
- 2003〜06年 住宅・不動産バブル(アメリカ)
- 2017〜2018年 仮想通貨バブル
こうした歴史を知っていれば、たとえ目の前で住宅価格が高騰し続けていても「このブームもいつかは去る。頃合いを見計らって対策を打とう」という考え方ができるようになります。
未来を予測するために、歴史の知識は必要不可欠なのです。
お金の窓口では、前掲のリーマン・ショックの記事のほか、海外投資の極意は「16〜17世紀オランダ黄金時代」にあり!などの記事でお金の歴史を解説しています。
まとめ
私たち人間には、内容や仕組みをよく理解せずに意思決定をする癖があります。
そのため金融商品を選ぶ際に、「良さそう」「買ってみようかな」と思っても、一度落ち着いて考え直す必要があります。
しかし考え直すためには知識が必要です。そこで役に立つのが「金融商品の仕組み」「人生設計の考え方」「お金の歴史」の3つの知識です。
大切な資産をよくわからないまま失わないためにもまずしっかりと考えて、そしてもう一度考えて、そのうえで決断をする習慣を身につけましょう。