ソフトバンクがWEWORKへの投資で大きな損失を出したことから、「ソフトバンクは倒産する可能性があるのではないか」と不安を感じる人が増えてきています。

四半期決算における赤字は2004年9月以来、実に15年ぶり。

最終損益が7001億円という創業以来の大赤字を出したこと、ソフトバンクが今まで力を入れてきた投資部門で大きな損失を出してしまったことから「今回のような投資における損失が続いた場合、ソフトバンクは倒産してしまうのではないか」と先行きを懸念する意見が多くなってきているのです。

ソフトバンクは日本における時価総額第6位の日本を代表する大企業ですから、一般的に考えれば倒産は考えにくいでしょう。

しかし、ソフトバンクはWEWORKの他にも、多くの企業に多額の投資をしています。

投資先企業の業績が伸びなかったりアメリカの市場環境が悪化したりすると、今回のWEWORKのような大きな損失を出してしまう可能性があり、倒産も考えられるほどの大きなダメージを受けてしまうかもしれません。

この記事では、ソフトバンクのWEWORK問題と、今後の見通しについて詳しく解説していきます。

巷で話題になっているように、ソフトバンクが今後倒産する可能性があるのかどうかについてもいろいろな角度からみていきましょう。

INDEX
  1. ソフトバンクが投資したWEWORKとはどのような会社?
    1. WEWORKのサービスの特徴
  2. WEWORKの時価総額が暴落した理由
    1. 原因1.WEWORKの赤字
    2. 原因2.元CEOニューマン氏の不祥事
    3. 原因3.WEWORKはテック企業ではないという疑念
  3. WEWORKの経営再建が難しい3つの理由
  4. なぜWEWORK問題がソフトバンクの倒産問題につながるのか
    1. ソフトバンクの投資ファンドであるビジョン・ファンドとは?
    2. ビジョンファンドは7%配当確約のものがある
  5. ソフトバンクの負債について解説
    1. ソフトバンクの長期債務は約14兆円 非金融業では世界で二番目に多い
    2. ソフトバンクの社債発行額は4兆円以上 償還と利払いの負担が大きい
    3. ソフトバンクの社債の格付けが低下
  6. ソフトバンクの資産について解説
  7. ソフトバンクが倒産する可能性はある?
    1. ソフトバンクのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が高い
    2. ソフトバンクの大株主は年金や外資系金融機関
  8. まとめ

ソフトバンクが投資したWEWORKとはどのような会社?

WEWORKとオフィス

ソフトバンクが2017年から投資してきたWEWORKは、「ユニコーン企業」と呼ばれる会社。

ユニコーン企業とは、評価額10億ドル以上で非上場、創立10年以内のベンチャー企業のことをいいます。

これらの大型ベンチャー企業は「めったに姿を見せない貴重な存在」という意味をこめて、幻の生き物であるユニコーンと呼ばれるようになり、注目を集めるようになったのはこの数年のこと。

アメリカの株式市場が好調なことをうけて、このような未上場のスタートアップ企業にも多額の資金が集まり、「ユニコーンバブル」と呼ばれる状態が続いていました。

有望なユニコーンであったWEWORKはシェアリングエコノミーサービスとして、企業や個人が利用できるコワーキングスペースを提供する企業です。

シェアリングサービスとして有名な

    • 民泊仲介サービスのAirbnb
    • ライドシェアのUber(ウーバー)

と並んで、高い注目を集めてきました。

WEWORKのサービスの特徴

WEWORKは、従来のシェアオフィスとは違う特徴があり

    • メンバー同士が出会って交流しやすい環境を整えることで、コラボレーションやイノベーションを生み出す

ということを重視しています。

他の一般的なシェアオフィスは、安い賃料や充実したオフィスのインフラをアピールするのに比べ、WEWORK「コミュニケーションが生まれやすい環境」を一番の魅力として打ち出しているのです。

WEWORKが支持される理由として、以下のような点が挙げられます。

    • インスタ映えするクールなオフィスであること
    • 賃貸に入居するのに比べて、初期費用が少額ですむこと
    • 追加料金を支払えばWEWORKの海外拠点オフィスを利用できること
    • 一等地の利便性が良い場所で物件を探すことなく、すぐに仕事ができること

ユーザー層も幅広く、スタートアップ企業やフリーランス、大手企業と多岐にわたっています。

WEWORKの時価総額が暴落した理由

WEWORK時価総額が暴落

WEWORKは2019年8月に新規株式公開の登録書を公開しており、時価総額も高く、IPOは目前でした。

そして、WEWORKが新規上場すれば、ソフトバンクは保有していたWEWORK株を市場で売却して大きな利益を得られるはずでした。

しかし、IPOが中止になってWEWORKの企業価値が暴落したことから、ソフトバンクは利益を得るどころか、WEWORK株式の巨額含み損を損失として計上することになってしまったのです。

WEWORKのIPO中止の理由はどのようなものだったのでしょうか。3つの原因をみていきましょう。

原因1.WEWORKの赤字

WEWORKは株式公開のためにさまざまな情報を公開しましたが、公表された事業内容がひどすぎるとメディアや投資家から酷評されたことが、IPO中止の一番大きな原因です。

IPO中止前のWEWORKの企業評価は470億ドルとされていましたが、蓋を開けてみると赤字で収益がまったくあがってないことがわかり、企業価値は半分以下の80億ドルにまで急落しています。

WEWORKの赤字はどのような状態なのでしょうか。

WEWORKの2018年と2019年の上半期の損益書の比較は、以下のようになっています。

2018年 2019年
売上高 763,711 1,535,420
 拠点運営コスト 635,968 1,232,941
 減価償却費 137,418 255,133
 運営費 42,024 81,189
 一般管理費 155,257 389,910
 広告費 139,889 320,046
拠点運営コスト~広告費を含むすべての費用合計 1,441,630 2,904,870

(単位:1,000ドル)

WEWORK決算書 21ページより)

この損益計算書でわかることは以下の2点です。

    • 2018年、2019年とも、費用が売上の約2倍。膨大なコストがかかっており、全く利益が上げられていない
    • 2018年と比較して2019年は売上が倍増しているが費用も倍増。売上が伸びても利益が上がらない構造である

WEWORKの2019年7~9月期のオフィス平均稼働率は約79%。

もしも稼働率が100%に上がり売上高が約19億43,00万ドルに増えたとしても、費用(29億487万ドル)のほうが大きく、それでも赤字となる計算になります。

このように現在のWEWORKでは売上に占める費用の支出が大きすぎるため、今のままでは利益を出していくことは非常に厳しいと言わざるを得ません。

IPOを実現するには、黒字経営にすることがまず第一と考えられますが、様々な改革を行って利益構造そのものを変えていかなければ、先行きは暗いと言えるでしょう。

原因2.元CEOニューマン氏の不祥事

WEWORKのIPO中止のもうひとつの原因が、以下のような元CEOのニューマン氏の不祥事です。

    • ニューマン氏自身が保有する建物を自社に貸し出してお金を得る「自己取引」を行っていたこと
    • 企業名をWe WorkからThe We Compayに変更したときに命名料がニューマン氏に支払われていたこと
    • 年齢やジェンダーで差別する社内文化があったこと

二ューマン氏は10年以上WEWORKを育ててきた創業者で、WEWORKが注目を集めたのはカリスマ性が高い彼の存在があったことも一因と言われています。

しかし、彼が今まで評価されてきたようなすばらしい経営者ではなかったと露呈したため、WEWORKの評価も落ちてしまいました。

現在は非常勤会長職として経営から退いたものの、WEWORKに対して厳しい評価が続いています。

原因3.WEWORKはテック企業ではないという疑念

WEWORKが470億ドルの評価を得ていたころから「WEWORKはテック企業ではないので、そもそも470億ドルの価値はない」と考える人が少なからずいました。

現代のテック企業には以下のような特徴がありますが、冷静にWEWORKを分析してみるとこれらを満たしていないことがわかり、企業価値が急落しています。

ハーバード・ビジネス・スクールの教育理念に基づいて創刊された最古のマネジメント誌である「Harvard Business Review」によると、テック企業の条件は

    1. わずかな費用でサービスの拡張が可能なこと
    2. 設備投資が少なくてすむこと
    3. 大量の顧客情報を集め、それを活用できること
    4. わずかなコストでサービスの拡張が可能なこと

の4つとなっています。

グーグルやフェイスブックと比較しながらみてみると、WEWORKがこれらの条件を満たしていないことがわかります。

テック企業の条件 テック企業の例(グーグルやフェイスブックなど) WEWORKの場合
わずかな費用でサービス拡張が可能 顧客が一人増えたときにサービスを提供するコストが低い 会員が増えると提供するサービスのためのコストがかかる(賃料・光熱費・維持管理費・保険・セキュリティ・軽食費用など)
少ない設備投資 サーバー費用はかかるが、土地・建物・工場・倉庫などの必要性は低く、身軽な状態 不動産の賃貸を行うため、売上を上げるためには多額の資本(不動産物件)が必要
大量の顧客情報を集め、活用できる 多くの企業にとって価値がある利用者データを長年に渡って蓄積・分析し活用することが可能 詳しい顧客データを収集しようとするとプライバシーの侵害となりかねない。
わずかなコストで拡張可能なサービス 例えばアマゾンは、既存顧客にアプリや音楽、決済サービスなどを抱き合わせで提供可能 他の不動産分野(分譲住宅など)に参入できたとしても、莫大な投資と新たな顧客の開拓が必要

IPO延期でテック企業とはいえないWEWORKの実態について広く知られることになりました。

今ではWEWORKに対する市場の評価は「将来性が高いテクノロジー企業」から「普通の不動産事業を営む会社」に変わってしまっています。

赤字経営にもかかわらず約480億ドルという高い評価を受けていた理由は、会社の現在の実績ではなく、「テック企業としての将来性」です。

しかし、今回のIPO中止で投資家の認識が変化したため、WEWORKの企業価値が以前のような金額に戻る可能性は低いといえます。

WEWORKの経営再建が難しい3つの理由

ソフトバンクでも難しいWEWORKの再建

ソフトバンクはWEWORKの経営危機を受け、1兆円以上の追加融資策を決定しています。

このことにより、今までの投資分の1兆円と合わせ、ソフトバンクはWEWORKへ約2兆円の投資を行っていることになります。

現在、ソフトバンクが保有するWEWORKの株式は、約8割。

ソフトバンクの決算に直接影響しないようにWEWORKを連結子会社にはしていないものの、WEWORKの状態がソフトバンクの業績に大きな影響を与えることは間違いありません。

そのため、早急にWEWORKを改革して延期になっているWEWORKのIPOを実現させる必要があります。

しかし、WEWORKの構造的な問題から、今後短期間で大きな利益を出すのは難しいのではないかという声も多く聞かれます。

その理由は、以下の3点です。

    1. WEWORKで黒字となっているのは、世界37ヶ国のなかで日本を含めた2か所のみ
    2. シェアオフィスというビジネスモデルの限界
    3. WEWORKの契約は月単位のため、収益が安定しない

特に、シェアオフィスというビジネスモデルには、構造上すぐに利益を出しにくいという問題があります。

ホテルや飛行機、シェアオフィスのように部屋数や席数の上限が決まっているものは、利益の上限も決まっています。

そのため、利益を増やそうとすれば、オフィスを増やすなどの負債を伴った先行投資がかならず必要となります。

しかし、先行投資した物件が利益を出し始めるまでにはある程度の時間がかかるため、収益が上がるまえに売上が減少した場合、赤字幅が急に拡大してしまうのです。

このようにWEWORKのビジネスモデルは短期で高収益を得にくい構造となっており、将来の見通しは決して明るいものとはいえません。

しかし、そのように先行きが不安定な状況であっても、ソフトバンクはWEWORKの倒産を避けるために追加出資せざるを得なかったという事情があります。

急激な収益の増加が見込めないWEWORKに約2兆円という投資を行っているソフトバンクにとって、厳しい状態が続くと考えられています。

なぜWEWORK問題がソフトバンクの倒産問題につながるのか

ソフトバンク倒産可能性は高いか

今回、ソフトバンクがWEWORKで大きな損失を出したのは投資事業でした。ソフトバンクは携帯や通信事業がメインの会社と思っている人も多いのですが、実は現在の主軸は投資事業となっています。

ソフトバンクはビジョン・ファンドと呼ばれる10兆円ファンドを運用しており、WEWORKもこのファンドの投資先のひとつでした。

ソフトバンクの孫社長は、アリババを見出した初期の出資者として有名で投資家として高い評価を受けており、このビジョン・ファンドには大きな期待が集まっていました。

しかし、今回のWEWORK問題で、孫社長の投資家としての評価に疑問符がつく結果となっています。

ソフトバンクの投資ファンドであるビジョン・ファンドとは?

ソフトバンクは、ビジョンファンドという10兆円ファンドを運用しており、WEWORKだけではなく多くの企業に投資を行っています。

投資額が巨額なこのファンドで大きな損失を出したため、「倒産するのでは」と不安を感じる人が増えてしまったのです。

ソフトバンクのビジョンファンドが投資する会社は、およそ82社。

それらの企業が順調に成長しIPOを実現できれば、ソフトバンクは多額の利益を得ることができます。

しかし、今回のWEWORKのように予想外の事態が起こったときには逆に大きな損失を出してしまう危険性があり、ソフトバンクの業績が不安定になる要因のひとつになっています。

ビジョンファンドは7%配当確約のものがある

ソフトバンクのビジョンファンドの出資の内訳は、ソフトバンクが281億ドル、外部投資家が636億ドルです。

そして、これらは優先ユニットと資本ユニットに分けられており、優先ユニットでは12年間7%の配当を受けられ、しかも元本保証という条件がついています。

資本ユニットは手数料を除いた運用益をすべて受け取れるかわりに、元本割れのリスクがあり、一般的なファンドと同じかたちとなっています。

このビジョンファンドの一番の問題は、優先ユニット用の配当、約4300億円の利益を毎年必ず生まなければならない仕組みであること。

年間7%保証なので、この配当分のお金は毎年必ず必要になります。

このビジョンファンドは2019年9月末時点で、すでに約6360億円の借り入れを行っており、このお金は「7%配当」の原資に利用されているとされています。

また、今後追加で約9000億円もの借り入れを行うと発表されており、利払いが重くのしかかっていることがわかります。

2019年の決算書資料では、ベンチャーファンドの投資実績として、投資先88社のうち、

    • 価値が上がったのが37社
    • 実現益と評価益を合わせて1.8兆円
    • 評価減の会社が22社で-0.6兆円差し引き1.2兆円の利益

となっており、投資パフォーマンスはプラスの状態となっています。(決算書資料より)

ただ、この評価額は実際に株を売った利益ではなく、株式の含み益です。

ファンドが保有する巨額の株式を実際に売ろうとすれば、売り圧が大きくなってしまって株価が下がるため、評価益をそのまますぐに現金化できるわけではありません。

そもそも、投資を行ったユニコーンの株式は未上場のものが多く、評価益を現実化するためには、IPOを実現して株式を新規公開するしか出口がないということになります。

つまり、ビジョン・ファンドの評価額がいくら高くても、将来その利益をそのまま現金化できるかどうかはまったく不透明ということになります。

利払いのための現金を安定して確保できるかどうか、IPOを実現して投資した株を市場で売却できるかどうかが、今後のソフトバンクにとって重要な問題といえます。

ソフトバンクの負債について解説

ソフトバンクの負債

ソフトバンクの決算書を見てみると、多額の負債があるため、いずれ倒産してしまうのではと感じる人がいても不思議ではありません。

ただ、ソフトバンクには大きな資産もありますので、負債が多くても倒産の可能性が高いとはいえないのです。

ソフトバンクの負債には金融機関から借入れたもの、社債の両方がありますので、まずはこれらを詳しく見ていきましょう。

ソフトバンクの長期債務は約14兆円 非金融業では世界で二番目に多い

ソフトバンクの長期債務は約14兆円にものぼっており、一企業がかかえる債務としては非常に多くなっています。

主な借入先は以下のようになっており、日本だけではなく海外の金融機関からも多く融資を受けているのが特徴です。

借入先 借入額
みずほ 5980億円
三井住友 4490億円
UFJ 3360億円
ドイツ銀行 2060億円
オリックス銀行 1900億円
三井住友信託 1260億円
シティバンク 1230億円
JPモルガン 1130億円
バンクオブアメリカ 1020億円
借入額合計 2兆2430億円

特に、みずほと三井住友、UFJだけで融資残高は1兆4000億円と、かなりの額になっています。

今まで日本の金融機関は、世界有数の銀行と取引があるソフトバンクとの取引は「収益アップに貢献する旨みがある融資」と考えていたため、多額の融資を行ってきました。

しかし、銀行もWEWORK問題をきっかけにソフトバンクに対する融資のリスクの大きさに敏感になっており、今後ソフトバンクが資金難におちいったとき、今までのように融資をスムーズに受けられるかどうかは不透明な状況となっています。

万が一ソフトバンクが倒産すると、これらの巨額な融資がこげつき、金融機関の経営にも大きな影響を与える可能性があります。

ソフトバンクの社債発行額は4兆円以上 償還と利払いの負担が大きい

ソフトバンクは、巨額の借入をしているだけではなく、「社債の発行」というかたちでも資金調達を行っています。

ソフトバンクは非常に多くの社債を発行しており、2019年秋も、5000億円の社債を発行。

今回は1.64%だったので、この社債分だけでも毎年82億円の利払いをしなければならない計算です。

また、アメリカで発行しているドル建て社債は、例えば2027年満期のものは、利率5.125%で発行されており、円建てのものより利払い負担が大きくなっています。

今後償還がくる社債を、償還年度ごとにまとめた表が以下となっています。

償還年度 2019年9月末の貸借対照表上の社債残高
2020年度 約1497億円
2022年度 約4810億円
2023年度 約2689億円
2024年度 約1兆216億円
2025年度 約8705億円
2026年度 約5245億円
2027年度 約2203億円
2028年度 約1904億円
2041年度 約4483億円
2043年度 約152億円
合計 約4兆910億円

出典:ソフトバンクグループ IR情報より

このように、ソフトバンクは過去かなりの額の社債を発行しており、毎年、社債償還や利払いのための資金が大量に必要になる計算です。

特に、2024年と2025年の償還額が大きいことから、この時期にソフトバンクの資金繰りがうまくいくかどうか、注視する必要があるといえるでしょう。

ソフトバンクの社債の格付けが低下

ソフトバンクは大きな負債を抱えていることから社債の格付けも低くなっており、ソフトバンクの信用力が低下していることがうかがえます。

格付け機関 長期債 短期債
スタンダード&プアーズ(S&P) BB+
(投機的要素が大きく、状況によっては金融債務を期日通りに履行する能力が不十分となる場合がある)
日本格付研究所(JCR) A- J-1
ムーディーズ Ba1
(投機的と判断され、相当の信用リスクがあるとされる格付け)

S$PのBB+やムーディーズのBa1は、リスクが高いかわりに高いリターンを得ることができる「ハイ・イールド債ファンド」で組み入れられるレベルの格付けとなっており、社債の信用度はかなり低下しているということができます。

ソフトバンクの資産について解説

ソフトバンクの資産

ソフトバンクは多額の負債を抱えていますが、同時に多くの株式を保有しており、保有資産は2019年11月時点で、約27.9兆円にものぼっています。

これらの資産があることから、「倒産してしまうのでは」と思われるような多額の負債があっても耐えられるようになっているのです。

ソフトバンクは、保有している以下の株を担保に融資を受けることができるため、資金繰りは今後も問題ないと考える人も多くいます。

会社 時価総額
アリババ 13.3兆円
SBKK(携帯事業会社ソフトバンク) 4.8兆円
SVF(ソフトバンクビジョンファンドのうち、ソフトバンクの持ち分) 3.2兆円
スプリント 3.1兆円
アーム 2.7兆円
その他 2.8兆円
合計 27.9兆円

 

ソフトバンクが保有している株で一番多いものはアリババ株です。

これは、孫社長がアリババ創業時に出資したもので、20億投資をしたものが今では10兆円以上の価値になっていることから、今世紀最も成功した投資であると言われています。

現在莫大な価値があるアリババ株ですが、同じEC企業であるアマゾンと比べるとまだまだ過少評価されていると考えられており、今後ますます含み益が伸びる可能性があります。

このように、ソフトバンクは多くの株を資産として保有しており、負債だけではなく資産も多いことがソフトバンクの特徴といえます。

ソフトバンクが倒産する可能性はある?

ソフトバンクの未来

ソフトバンクは多くの資産を保有していますが負債も多く、今回多額の赤字決算になったことから、倒産するのではという不安をもつ人が多いことも事実です。

ソフトバンクが倒産する可能性は高いのかどうかを、2つの視点から考えてみましょう。

ソフトバンクのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が高い

ソフトバンクのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が高い数字となっており、市場がソフトバンクの信用力に不安を感じている状態となっています。

CDSとは、債券不履行(デフォルト)を回避するための金融派生商品であり、このCDSを購入しておけば、万が一その企業や国が倒産したときに補償を受けられる仕組みです。

例えば、ソフトバンクのCDSを購入しておけば、万が一ソフトバンクの社債が不履行になった場合でも損失分を補てんしてもらうことができます。

このCDSの値が高くなると「倒産の可能性が高いと市場が考えている」と判断することができます。

2020年1月8日のCDSの値を見てみると、ソフトバンクのCDSが、他社に比べて非常に高い状態であることがわかります。

企業名 CDSの値
ANA 33.85
JR東日本 23.49
JFEホールディングス 40.01
関西電力 30.76
神戸製鋼 73.50
トヨタ 12.56
楽天 49.99
東芝 64.45
ソフトバンク 217.82

日本証券クリアリング機構 CDSに関する統計データ(日次)より抜粋

ソフトバンクは国内有数の規模の大企業ではありますが、社債のデフォルトのリスクは他社よりもかなり高いと言えるでしょう。

ソフトバンクの大株主は年金や外資系金融機関

ソフトバンクが倒産して株の価値がゼロになると、一番損失を受けるのは大株主です。

ソフトバンクの株主上位10名(社)は以下のようになっており、日本の金融機関だけではなく外資系金融機関が多いことが特徴です。

順位 株主名 所有株式数の割合(%)
孫正義 22.32
2 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 9.78
3 日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 6.05
4 JP MORGAN CHASE BANK 380055 2.17
5 日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口 ) 1.51
6 CITIBANK, N.A.-NY, AS DEPOSITARY BANK FOR DEPOSITARY SHARE HOLDERS 1.42
7 JP MORGAN CHASE BANK 380763 1.40
8 JP MORGAN CHASE BANK 385151 1.26
9 JP MORGAN CHASE BANK 385151 1.24
10 STATE STREET BANK WEST CLIENT – TREATY 505234 1.16
大株主上位10位の合計 48.31

上位に位置している「日本マスタートラスト」「日本トラステイサービス」は、資産管理の代理人業務が主となっている金融機関。

「信託口」とは、マスタートラストやトラステイサービス自体が株を保有しているのではなく、資金を預かっていることを指します。

これらの金融機関の大口顧客の中には、「GRIF(年金積立金運用独立行政法人)」や、大手損保がいます。

つまり、年金や損保の運営資金でソフトバンク株が多く買われているということになります。

2018年度のGRIFの保有銘柄情報によると、ソフトバンク関連銘柄の保有額は以下のように約7900億円となっています。

会社名 時価総額
ソフトバンク 約1222億円
ソフトバンクグループ 約6667億円
ソフトバンク・テクノロジー 約24億円
合計 約7913億円

出典:GRIF 2018年度の運用状況 2018年度末の保有全銘柄について

もしもソフトバンクが倒産すれば、日本の年金にも大きな影響が出ることは避けられません。

また、JPモルガン・チェースの保有率が高いことも大きな特徴。

JPモルガン・チェースは世界100カ国以上でサービスを行い、25万人以上の従業員が働いている世界を代表する金融機関です。

万が一ソフトバンクが倒産するようなことがあれば、株の価値はゼロになるため、日本の年金基金やJPモルガン・チェースに大きな損失が出てしまいます。

倒産時の影響があまりにも大きいと考えられるため、ソフトバンクが経営危機に陥った場合は、何らかの方法で救済策がとられる可能性もあります。

まとめ

ソフトバンクのWEWORKへの投資がうまくいかず大赤字を出してしまったことで、ソフトバンクの成長神話に陰りがみえはじめ、倒産までささやかれる事態となっています。

ソフトバンクが多くの負債を抱えていることは周知の事実でしたが、「投資で大きな利益を出し、成長を続けているから大丈夫」と市場も判断し、あまり深刻に捉えられていませんでした。

しかし、今回ソフトバンクが力を入れてる投資事業で大きな損失を出してしまったことで、投資に多くの資金を投入しているソフトバンクの不安定さや、その負債の大きさを危惧する声が出始めています。

ただ、ソフトバンクは多くの資産を保有しており、すぐに倒産するとは考えにくいでしょう。

大株主には日本の年金基金や世界的金融機関がおり、倒産したときの影響があまりにも大きいと予想されることから、経営危機に陥っても様々な救いの手が差し伸べられるかもしれません。

しかし、リーマンショックのような突発的な危機が訪れた場合は資金繰りが急激に悪化し、倒産する可能性もあります。

ソフトバンクは市場環境の変化に大きな影響を受けやすい状態といえますので、アメリカの景気の動向と合わせて、その動向を注視していきましょう。