「万が一のために」
「満期になってから解約すれば、お金が増やせますよ」

そんな営業トークを受けて生命保険に勧誘されたり、すでに契約していたりする人も多いのではないでしょうか。

生命保険を買うこと自体に問題はありません。「万が一に備える」という発想は、人生におけるリスクを分散するためにも必要です。

しかしそれがもし生命保険を買う理由が「なんとなく不安だから」「資産運用にもなるから」というものなのであれば、これから買うのはもちろん、今後の契約の継続も見直すことをおすすめします。

なぜなら生命保険と資産運用は、非常に相性の悪い組み合わせだからです

ここでは生命保険という商品の本来の役割を明らかにするとともに、いかに資産運用との相性が悪いかについても具体的な数字を使って説明します。

INDEX
  1. そもそも生命保険の目的は「資産運用」ではない
  2. 資産運用商品としての運用効率が悪すぎる
    1. 貯蓄型は資産運用になる?ならない?
    2. 生命保険のお金を投資信託に回していたらどうなる?
  3. まとめ

そもそも生命保険の目的は「資産運用」ではない

腕でバツを作るスーツの男性

生命保険を資産運用の一つのように考えているかもしれませんが、この商品はもともと「万が一の備え」のために契約するものです。

  • 妻子のある人が事故や急病などで死亡した場合、配偶者や子どもが路頭に迷う可能性がある。
  • 自分1人だけで両親の介護をしていて、自分がいなくなると父と母が生活できなくなる。

このような状況にある人は生命保険に入っておくと、自分の死後に遺族にまとまったお金が入るので安心です。

しかしそのような事情がない人の場合は、生命保険に加入してもほとんどメリットはありません。誰かにお金を遺す必要が、あまりないからです。

また万が一の備えが必要な人でも、様々な特約がたくさんついた保険料の高い商品を買う必要はありません。

生命保険に関しては、基本的に以下の条件を満たすもののうち、保険料が安いものを選べば十分です。

  • 死亡保障が1,000万円程度(あるいは収入保障)
  • 特約はなし
  • 掛け捨て

「1,000万円は安くないか?」「掛け捨てはもったいないのでは?」と思う人もいるかもしれません。

しかし国民年金か厚生年金に加入していれば、遺族には遺族年金が給付されます。金額の目安は以下の通りです。

<配偶者+子ども1人の場合>
死亡したのが自営業者 死亡したのが会社員
月額約8.3万円

(年額約130万円)

平均月収25万円 平均月収35万円 平均月収45万円
月額約11.7万円
(年額約140万円)
月額約13.0万円
(年額約156万円)
月額約14.3万円
(年額約172万円)

※子どもが増えるほど、支給額も増える。
※最新の情報は日本年金機構のHPをご確認ください。

これに1,000万円の保険金が入れば、一定期間の生活は安心して送れるはずです。

もちろんこの点についてはあらかじめ家族と話し合っておく必要がありますが、必要以上の保障がついた高い保険に加入する必要はないということは、理解しておいたほうがいいでしょう。

また掛け捨てには保険料が圧倒的に安いというメリットがあります。

むしろ貯蓄型は保険料が高いうえ、急にお金が必要になって「早期解約」をすると、基本的に元本割れになるという致命的なデメリットがあるため、そうした場合の蓄えが別にあるという人以外には向いていません。

生命保険に加入する際は、とにかく「万が一の備え」だけに目的を絞り、できるだけシンプルな商品を選ぶのが鉄則なのです。

資産運用商品としての運用効率が悪すぎる

頭を抱える男性

貯蓄型は資産運用になる?ならない?

「でも貯蓄型でお金を増やせば、資産運用になるんじゃないの?」と思う人もいるかもしれません。

確かに終身保険と呼ばれる貯蓄型は、一定の払込期間を過ぎてから解約すれば返戻金という形で、払込金額より多い金額が返ってきます。

このときの増えるお金の割合を返戻率と呼びますが、高いものでは108〜113%程度の返戻率が期待できます。

ではここで、少しシミュレーションしてみましょう。

「平成30年度 生命保険に関する全国実態調査(速報版)」によれば、世帯年間払込保険料は平均38.2万円(月額換算約3.18万円)となっています。

これをもとに毎月3万円の保険料を払い込んだとして、これを30歳から65歳まで35年間払い込んだとすると、合計金額は1,260万円です。

毎月3万円×12ヶ月×35年=1,260万円

この貯蓄型生命保険の返戻率を110%だとすると、払い込んだ1,260万円は10%の126万円増えて、1,386万円になります。

確かにお金は増えますが、これを「お得だ」と思うのは早合点です。なぜなら35年もかけて、たった126万円しか増えていないと考えることもできるからです。

1年に換算すると3.6万円、年利に換算すれば約0.28%にしかなりません。

確かに銀行に預金するよりははるかにお得ですが、資産運用としてはパフォーマンスが低すぎると言わざるを得ません。

生命保険のお金を投資信託に回していたらどうなる?

では、この1,260万円を全額投資信託に回していたらどうなるのでしょうか。

条件としては先ほどと同じ、金額は毎月3万円(年間36万円)、期間は35年間として、利回りは堅実に運用したとして年利2%に設定しましょう。

  • 毎月積立金額:3万円
  • 期間:35年間
  • 年利:2%(リスク回避重視)

この条件で投資信託を運用した場合、35年後に資産は約1,822万円になります。増えた金額は約562万円です。返戻率に換算すると約169%にもなります。

もちろん、国内外のよりパフォーマンスの高い投資信託を運用すれば、より大きな資産を作ることもできます。

あるいは海外の貯蓄型生命保険には返戻率が1,000%という商品も存在しており、これに加入することができれば十分資産運用になります。

ただし今の日本に住んだまま海外の生命保険に加入するためには、法的な手続きを踏む必要があるため、海外への長期出張などで国外に戸籍を移す機会でもない限り、現実的な方法ではないでしょう。

まとめ

生命保険の目的はあくまで万が一の備えであり、資産運用ではありません。

その点をよく理解したうえで、なるべくシンプルな商品を選び、残りのお金を資産運用に適した商品に回すというのが賢いやり方です。

また万が一の備えが必要ないという人は、生命保険のためのお金をそのまま投資信託のような元来資産運用を目的に作られた商品に回すべきでしょう。

金融商品・投資商品には、それぞれの性質があります。生命保険に限らず、自分の目的に合致した商品を選ぶようにしましょう。