銀行で投資信託の販売が出来るようになってから20年以上が経ちました。昔は、証券会社でしか販売することが出来なかった投資信託ですが、銀行で販売出来るようになってから、銀行のビジネスモデルは大きく変わりました。
昔の銀行は、お金を集めてそのお金を融資する業務が主な業務でした。しかし投資信託が販売出来るようになり、手数料ビジネスが銀行業務の大きな柱になりました。
なぜなら手数料の高い投資信託は銀行の収益に直結するからです。私は、メガバンクで約13年間、投資信託の販売をしてきました。
そこには、収益をあげるために信じられないほどのノルマと、とてもお客様には見せられないような恐ろしい販売ロジックがございました。
今回は、銀行の投資信託のノルマについて説明します。
銀行の投資信託の販売ノルマの実態
銀行の投資信託の販売ノルマの実態ですが、一言でいうとエグいです。毎月、膨大なノルマが本部から支店に降りてきます。
支店に降りてきたノルマは、支店の規模によってノルマは大きく変わりますが、私が入行した神奈川県内の支店では、毎月の投資信託のノルマは営業員5人で約10億円でした。
支店に所属する営業員に分配されます。私は新人行員だったので投資信託の販売ノルマは毎月5千万円ほどでした。支店のエース営業員の目標は約5億円ほどだったと思います。
また、投資信託の販売ノルマは、販売額だけではありません。銀行の本部は次から次へと新しい投資信託を仕入れます。
新しい投資信託には、必ず販売ノルマがあります。しかも販売初日にいくら売るかのノルマもあります。
中には、商品性が悪い投資信託もありますが、支店は、本部からいわれたことに逆らうことは出来ません。
商品ごとにノルマがあるので、Aという投資信託が合いそうな顧客にも、Bという投資信託のノルマが達成されていなければ、Bの方を販売しなくてはなりません。
私も、新人時代、売りたくもない新商品の投資信託を販売初日に10人の顧客に販売したことがあります。
事前に勧誘をしていたので支店に来店してもらい販売しました。投資信託を購入する顧客で行列になったことを覚えています。
投資信託の購入で行列になるほど、銀行は新商品の販売に力を入れるのです。
メガバンクの都心店でエース営業員の投資信託の販売ノルマ
私は、神奈川県内の支店に5年ほど勤務した後、東京都心の支店に異動になりました。しかも支店で一番稼がなくてはいけない立場での異動でした。
東京都心店に課せられた投資信託の販売ノルマは、神奈川県内の支店のノルマの3倍でした。
つまり営業員5人で30億円の投資信託を販売しなければいけないのです。私に課せられた毎月の投資信託のノルマは15億円でした。
この15億円がどのくらい高いノルマかというと1千万円投資してくれる顧客であれば、150人見つけなければいけませんし、500万円が平均投資額の場合、300人みつけなければなりません。
時間は有限なので1ヶ月で150人も300人にも投資信託を販売することは出来ません。必然的に単価の高い顧客を集中的に攻めることになります。
もちろん、都心店の顧客は富裕層が多いので、顧客1人当たりの単価は非常に大きいです。しかしノルマがあまりにも膨大だったため、ノルマをこなすために、様々な営業手法を使いました。
後程詳しく書きますが、高齢者への狙い撃ち営業や、短期間で回転売買を繰り返す営業手法などです。
当時は、ノルマを達成させるために、悪いことだとおもっていませんでしたが、今振り返ると、顧客に本当に申し訳ないことをしたと思っています。
ノルマを達成できなかったら…
ノルマは達成させることが当然の雰囲気でした。未達成で許されることはありません。もし、投資信託の販売ノルマを達成出来なかった場合は、恐ろしい仕打ちが待っています。
支店長に罵倒されるのは当たり前ですが、地域本部に呼び出されることになります。
地域本部とは、近隣の支店10~20支店を統括している組織です。
投資信託のノルマを達成出来ない場合は、支店長と地域本部に行かなければなりません。そして地域本部の部長から延々と罵倒されます。
「お前のせいで他の支店が数字を補うために大変な思いをした。全従業員に謝罪しろ」といわれたり、「あほ、ボケ、死ね」などの暴言はあたりまえでした。
私の時代は暴力はありませんでしたが、2000年代前半までは、灰皿が飛んでくることもあったようです。
人格否定の説教が長い時は3時間以上続きます。ノルマを達成出来なかった営業員は二度とこんな思いをしたくないと思うためより一層ダークな営業をするようになるのです。
また、何度も投資信託の目標を達成出来ないと、容赦なく飛ばされます。前の支店でエース営業員だった人がわずか半年で関連会社に出向させられたこともありました。
投資信託のノルマを達成出来ないということは銀行員人生が終わってしまうことを意味するのです。
ノルマ達成のためなら何でもやる。ノルマを達成させるための営業手法
投資信託のノルマを達成させるための営業手法についていくつか紹介します。先程もすこし触れましたが、目標を達成させるために主にやることは、高齢者狙い撃ちと短期間での回転売買です。
高齢者狙い撃ちとはその名の通りでお金を持っている高齢者に投資信託を購入してもらうことです。
もちろん高齢者に投資信託を購入してもらうことは悪いことではありません。しかし高齢者の多くは投資信託の仕組みについて理解出来ない方が多いのです。また高齢者は銀行員を信じてくれることが多いので非常に簡単に投資信託を買ってくれます。
高齢者を狙い撃ちした営業をすることによって、投資信託の販売ノルマを達成させることが出来るのです。
回転売買とは、保有している投資信託を解約して、他の投資信託を購入してもらうことです。
マーケットの状況によって投資信託を買い換えることは悪いことではありません。しかし、銀行員は、ノルマ達成のために短期間のうちに回転売買を行うのです。
実際に私は、ノルマ達成のために1か月前に販売した投資信託を別の投資信託に切り替えたことがあります。金額は3億円ほどでした。手数料3%の投資信託を1か月前に販売をしたのでその時に900万円の手数料をもらいます。更に1か月後別の投資信託に切り替えることによってまた手数料を受け取ります。
もちろん1か月では、900万円の手数料を補うほど価格は上がっていなかったため、損失を出しての切り替えになります。
ノルマに追われてこのような取引をしたことがある銀行員は多いと思います。
高齢者を狙うちにして回転売買を行うことによって投資信託のノルマを何とか達成させるのです。
営業ノルマを無くした銀行もあるが実態は…
三井住友銀行が、個人目標のノルマを廃止したことが話題になりました。顧客本位の営業を行うということが大義名分のようです。
しかし、投資信託などの販売ノルマを無くしても、新たなノルマがあるようです。それは、顧客の保有する投資信託や外貨預金などの残高を増やすノルマです。
投資信託や外貨預金、ファンドラップなどは、ランニングコストが生じます。ランニングコストがかかる資産を増やすことが出来れば銀行は儲けることが出来るのです。
また販売手数料のようにその場だけの収益ではなく、顧客が投資信託などを保有し続けてくれれば未来永劫入ってくる収益になります。
多くの銀行は今、投資商品の残高から収益を稼ぐビジネスモデルへ変換しようとしています。
無理に販売収益を稼ごうとしないので一見すると良いことのように思われるかもしれません。
しかし、投資信託の残高を増やすことがノルマになるので顧客に投資信託などを解約されると困るのです。
販売ノルマがなくなっても、投資信託の残高などを維持させるために投資信託を解約させないことが今後横行していく可能性は十分あるとおもいます。
まとめ
今回は、銀行の投資信託のノルマについて説明をしました。これを読むと銀行で投資信託を買うのは怖いと多くの方が思われると思います。
しかし現在は、インターネットでお金や投資に関することを手軽に調べることが出来る時代です。
投資信託についても様々な情報があります。銀行に騙されないようにするには、自分でお金や投資のことを調べることが何よりも大切です。
投資を行う際は、人任せにするのではなく、自分でしっかり調べてから行うようにしましょう。
このお金の窓口にも、投資に関する様々な情報が掲載されております。