
これから投資信託を買おうと考えている人の多くは、「他の投資商品に比べて損失を出すリスクが低いから」という理由で購入を検討しているのではないでしょうか。
しかし国内で数千本ある投資信託のなかには損失を出している商品もたくさんあります。
事実2018年6月29日に金融庁が公表した資料によれば、主要銀行等9行と地域銀行20行で投資信託を保有している顧客のうち、35%が損をしているという結果が出ています。
投資信託の良し悪しを見極められなければ、資産が目減りする可能性は十分あるのです。
投資信託の判断基準には様々なものがありますが、そのうちの一つが投資信託の規模を示す数字である「純資産額」です。
ここでは純資産額を投資信託の見極めに活用する方法と、これを判断基準として使う際の注意点について解説します。
「純資産額」はいつ増えて、いつ減る?
純資産額とは、投資信託が持つ全財産を合計した数字のことです。
この場合の財産とは株式や債券を指します。数億円程度のものから、数千億、1兆円を超えるような投資信託もあります。
では純資産額はどのようなときに増え、どのようなときに減るのでしょうか。
純資産額が増える理由 | 純資産額が減る理由 |
運用している株式・債券が値上がりしたから | 運用している株式・債券が値下がりしたから |
新しく投資信託を買う人が増えたから | 解約・売却が相次いだから |
たとえば株式投資をしている場合、株式の価値が上がれば自分の資産は増えることになります。
投資信託も同じように、株式や債券といった財産の価値が上がれば純資産額も増加するようになっています。
また新たに資金を追加してくれる人が現れれば、単純に集まっているお金が増えるわけですから、純資産額も大きくなります。
逆に株式・債券の価値が下がる、解約・売却によって集まっているお金が減る、といった事態になった場合、そのぶんだけ純資産額も減少します。
このほか投資家に対して支払われる分配金は純資産額から出ているので、支払いが行われた場合も減少につながります。
ボーダーラインは「純資産額30億円」
投信の損益分岐点が「30億円」
純資産額は一般的に投資信託の規模を表す数字といわれています。
ではどれくらいの規模があれば、リスクの低い投資信託だといえるのでしょうか。
これには色々な答えがあるものの、「30億円」をボーダーラインとする機関投資家やファイナンシャルプランナーが多いようです。
なぜなら、金融機関側から見た損益分岐点となる純資産額が30億円とされているからです。
投資信託を運用するためにはファンドマネージャーやアナリストの人件費、広告宣伝費をはじめとする経費が必要になります。
仮に運用管理費用が1%だった場合、金融機関の手元に入るお金は3,000万円です。
ここから経費を差し引いたときに赤字になれば、金融機関としては運用すればするほど自分の首を絞めることになります。
結果、純資産額が30億円を切ると、金融機関は運用を停止(繰上償還)するなどして対応せざるを得なくなるというわけです。
このような考え方から、純資産額の基準が30億円とされているのです(※)。
TOPIXなどの指標を上回る運用を目指す「アクティブ運用」の場合。指標に連動する「インデックス運用」の場合は、経費が少なくて済むため、10億円が損益分岐点とされています。
増えていればOK、減り続けている場合は要注意
純資産額を見る際は金額だけでなく、金額の増減にも注目が必要です。
投資信託の運用成績を維持するためにはお金が必要です。
前述したような経費以外にも、株式や債券などから新しい銘柄を組み込んだり、一時的に下落した資産の買い増しを行ったりと、様々なアクションをとるためにもお金がかかるからです。
純資産額が増えているということは、そうしたアクションを取りやすくなるということなので、安定した運用が行われる可能性も高くなります。
一方で純資産額が減っていくと、成績維持のためのアクションがとれなくなるうえ、解約に伴って投資家に支払うお金を用意するために株や債券を売らなければならないため、ますます身動きができなくなります。
結果その投資信託はジリ貧になり、あとは価値が下がるのを待つ一方になってしまいます。
したがって純資産額を見る際は増えているのか、減っているのかにも注目が必要なのです。
ネット証券や金融機関のホームページなどでも確認はできますが、取り扱っていない商品の情報までは見られません。
対して投資信託評価会社「モーニングスター」のホームページでは、ページ上の検索ボックスに投資信託名を入力すれば、すべての商品の純資産額とその推移を確認することができます。
モーニングスター社のホームページはこちらから。
「資金流入が異常に多い投信」には要注意
前述したように、純資産額が増えているということは資金の流入が流出を上回っているということなので、その投資信託のリスクは比較的低いと言えます。
しかしあまりにも資金流入が多く、数ヶ月で数億、何十億と増えている場合には逆に注意をしなければなりません。
たとえばテーマファンドには手を出すな!金融機関が売りたがる理由と資産運用に不向きな理由でも解説しているテーマ型の投資信託のなかには、運用が始まって1年も経たないうちに数千億円もの資金を集めてしまう商品もあります。
数字だけをみるとものすごく人気で、誰もが欲しがるパフォーマンスの高い商品に思えます。ですがそれは勘違いです。
なぜなら売り手の都合で作られ、売られる商品だからです。
というのも基本的にテーマファンドは、金融機関が販売員に対して、
「今期はこの商品を集中的に販売してください。全国での目標は○○○○億円です。」
と指示を出し、マスメディアで広告を打ったり、窓口の担当者が積極的にセールスをしたりして売るものなのです。
つまり、良い商品だから純資産額が増えているのではなく、単に金融機関が熱心に売り込んでいるから増えているだけということです。
そのため金融機関の窓口やネット証券のランキングページで「今いちばん純資産額が伸びている商品です!」と掲げられているものについては注意が必要です。
純資産額の増え方をチェックするとともに、交付目論見書を確認してどんなコンセプトの商品なのかも慎重に確認するようにしましょう。
まとめ
純資産額は投資信託を選ぶ際の、一つの指標になります。
また純資産額が増えていることは、一般的に良いことだと思われがちですが、ただ増えていればいいというわけではなく、増え方に注意する必要があります。
投資信託の良し悪しを判断する基準には、この他にも投信スコアや手数料率など様々なものがありますが、純資産額もそのうちの一つとして活用していきましょう。