官公庁のサイトやファイナンシャルプランナーの書いたネット記事、雑誌や書籍など、様々な人が様々な媒体で個人型確定拠出年金(iDeCo)を勧めています。

たしかにiDeCoには節税をしながら資産運用による利益が期待できるなど、多くのメリットがあります。

しかし一方で、iDeCoには明確なデメリットもあります。そのためよく考えずにiDeCoを始めてしまうと、思わぬ損をする可能性があるのです。

そこでここでは、iDeCoのメリットを概観するとともに、iDeCoを勧める人たちが過小評価しがちなデメリットについて解説していきます。

INDEX
  1. iDeCoは現役時代の税金を節約できる!
    1. 掛金が全額所得控除になる
    2. 運用益は常に非課税
    3. 受取時も税金面でメリットがある
  2. 知らないと損するiDeCoの落とし穴
    1. 所得税が少ない人には節税効果が薄い
    2. 「60歳まで引き出せない」の意味をよく考えよう
  3. まとめ

iDeCoは現役時代の税金を節約できる!

TAXの文字をハサミでカット

iDeCo最大のメリットは節税効果です。iDeCoにお金を積み立てるとき(拠出時)、iDeCoでお金を運用するとき、iDeCoからお金を引き出すとき、すべての時点で税制優遇が受けられるようになっています。

掛金が全額所得控除になる

iDeCoに拠出できる掛金の上限は、自営業者などの国民年金にしか加入していない人で月6万8,000円、会社員の人で自分の会社が企業年金や企業型確定拠出年金を実施していない場合は月2万3,000円となっています。

国民年金保険の種別 上限額
第1号被保険者 自営業者など 月6.8万円(年81.6万円)
第2号被保険者 企業型確定拠出年金のない会社の会社員 月2.3万円(年27.6万円)
企業型確定拠出年金に加入している会社員 月2.0万円(年24万円)
企業年金加入者、公務員 月1.2万円(年14.4万円)
第3号被保険者 専業主婦(夫)など 月2.3万円(年27.6万円)

年収600万円、課税所得(年収から控除等を差し引いた金額)が282万円の会社員Aがいたとしましょう。

彼には妻と高校2年の息子がいます。この場合の所得税率は10%、所得税額は18万4,500円です。

ところがAがiDeCoを初めて、企業型確定拠出年金のない会社の会社員の上限額月2万3,000円、年27万6,000円を拠出すると、課税所得が254万4,000円になります。

このときの所得税額は15万6,500円となります。つまり2万8,000円の節税になるのです。

課税所得の計算
  • 支払金額 600万円
  • 給与所得控除の金額 174万円
  • 給与所得控除後の金額 426万円
  • 基礎控除 38万円
  • 配偶者(特別)控除 38万円
  • 扶養控除 38万円
  • 扶養障害控除 0円
  • 受給者控除 0円
  • 保険料等控除 30万円
  • 所得控除の額の合計額 144万円
  • 課税される所得金額 282万円

600万円−174万円=426万円

38万円+38万円+38万円+30万円=144万円

426万円−144万円=282万円

iDeCoをする前の所得税の計算

282万円×10%−9万7,500円=18万4,500円(※)
※課税所得が195万円を超え、330万円以下の場合、所得税率は10%。税額控除は9万7,500円。

iDeCoをした後の所得税の計算

(282万円−27万6,000円)×10%−9万7,500円=15万6,500円

所得控除は所得税以外に国民保険料や住民税額にも関わってくるため、これらの負担額も安くなります。

運用益は常に非課税

小銭と電卓

資産を運用して出た利益(配当)には本来税金が課せられます。

税額は申告の仕方や、運用する資産の種類によって変わりますが、基本的には他の所得と合算して通常の所得税率で計算されます。

仮に30年間ずっと運用してきた資産から1,000万円の利益が出ていた場合、これをまとめて引き出すと1,000万円ですから、先ほどの会社員Aのようにもともとの課税所得が282万円でも、その年の課税所得は1,282万円になります。

所得税率は33%に跳ね上がり、所得税額は269万4,600円にも上ります。

計算式

1,282万円×33%−153万6,000円=269万4,600円

配当控除といって、運用する資産の種類によって運用益の2.5〜10%の控除が受けられますが、それでも数百万円の課税からは免れません。

一方、iDeCoで資産を運用して出た利益に関しては、すべて非課税になります。

1,000万円でも2,000万円でも、非課税です。会社員Aの場合なら269万4,600円がすべてチャラになるのです。

受取時も税金面でメリットがある

iDeCoは積み立てて運用したお金を一時金としてまとめて受け取ったり、期間を定めて年金と同じ形で毎月受け取ったり、もしくは一部を一時金として受け取って、残りを年金として受け取ったりすることもできます。

そしてこのタイミングでも税制優遇が受けられるのです。一時金として受け取る場合は以下の計算式で算出される退職所得控除の対象となります。

勤続年数(=A) 退職所得控除額
20年以下 40万円 × A(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超  800万円 + 70万円 × (A – 20年)

※より詳しい内容は国税庁のHP

また年金として受け取る場合は、公的年金等控除の対象になります。具体的な金額は下表の「控除額」をご覧ください。

年金を受け取る人の年齢 (a)公的年金等の収入金額の合計額 (b)割合 (c)控除額
65歳未満 (公的年金等の収入金額の合計額が700,000円までの場合は所得金額はゼロとなります。)
700,001円から1,299,999円まで 100% 700,000円
1,300,000円から4,099,999円まで 75% 375,000円
4,100,000円から7,699,999円まで 85% 785,000円
7,700,000円以上 95% 1,555,000円
65歳以上 (公的年金等の収入金額の合計額が1,200,000円までの場合は、所得金額はゼロとなります。)
1,200,001円から3,299,999円まで 100% 1,200,000円
3,300,000円から4,099,999円まで 75% 375,000円
4,100,000円から7,699,999円まで 85% 785,000円
7,700,000円以上 95% 1,555,000円

※より詳しい内容は国税庁のHP

これは絶対に税金がかからないというわけではありません。

たとえば会社からの退職金が多く、そこにiDeCoの一時金を上乗せすると、退職所得控除を上回るのであればそのぶんの税金がかかります。

またiDeCoを年金として受け取る場合でも、短期間に受け取るように設定すれば、公的年金等控除の控除額を上回ることもあります。

その場合はそのぶんの税金を支払わなければなりません。

とはいえ、iDeCoを利用せずに通常の投資用口座で運用していれば、前述したような所得税がかかるわけですから、節税効果があることには違いないでしょう。

知らないと損するiDeCoの落とし穴

落とし穴

こうして見てみると、iDeCoは文字通り「日本における最強の資産運用方法」のように思えます。

しかし冒頭でも書いたように、iDeCoには明確なデメリットがあります。以下ではそれについて見ていきましょう。

所得税が少ない人には節税効果が薄い

iDeCoは2017年から専業主婦(夫)も加入できるようになったため、「国民年金だけでは足りないから」とiDeCoに加入する人もいます。

しかし専業主婦(夫)のようにもともと所得がない人は、課税所得もなければ所得税も払う必要もありません。

したがっていくらiDeCoに積み立てたところで、節税効果の恩恵は受けられないのです。

住宅ローンを組んで、住宅ローン控除を受けている人も節税効果の恩恵が受けられない可能性があります。

住宅ローン控除は「毎年の住宅ローン残高の1%を10年間、所得税から税額控除」という制度なので、たいていの人は所得税がゼロになるはずだからです。

このほかもともと所得が少なく、所得税額も少ない人の場合も、iDeCoによる節税額が小さくなります。

「60歳まで引き出せない」の意味をよく考えよう

考える男性

iDeCoが抱える致命的なデメリットは「60歳まで引き出せない」というルールにあります。

もちろん例外はありますが、基本的に加入者の都合で引き出すことはできません。このルールがなぜ致命的なデメリットになるのでしょうか。

  • 子どもができて、まとまったお金が必要になった。
  • マイホームを購入したいので、頭金として数百万円が必要になった。
  • 自分が大きな病気を患ってしまい、当面の治療費としてまとまったお金がいる。
  • 親の介護が必要になり、そのための資金を自分が出すことになった。

どれも60歳までに十分起こりうる事態です。しかしいずれの場合もiDeCoからお金を引き出すことはできません。

もし他に資金のあてがなければ、子どもに満足な教育環境を与えられなかったり、マイホームを全額ローンで買わなければならなかったり、知人などにお金を借りて急病の治療費をまかなったり、介護の必要な親に我慢を強いなければならなかったりと、どこかにしわ寄せがきます。

そのため「万が一のための備え」ができていない人は、まずは貯蓄から始めなければなりません。

しかし貯蓄だけでは万が一のための備えにしかなりませんから、自分の老後のことを考えるなら、投資信託などを利用して「引き出せる資産」を運用しておいた方が良いでしょう。

iDeCoはそうしてやるべきことをやったあと、それでもお金に余裕がある場合に利用するべき手段なのです。

まとめ

iDeCoはしばしば「日本における最強の資産運用方法」のように紹介されますが、他の方法と同じように、向いている人と向いていない人がいます。

自分がどちらに属するのかをよく見極めたうえで始める必要があるでしょう。

この記事を通じて「自分はiDeCoに向いていない」「まずは貯蓄と資産運用から始めなくてはならない」と知った人のなかには、「でももうiDeCoを始めてしまって、ある程度積み立てをしてしまった……」という人もいるかもしれません。

残念ですが、すでに積み立ててしまったぶんについては、あきらめるほかありません。

「ここまで積立したんだから」とだらだらと積立を継続するのもやめましょう。

すでに積み立ててしまったぶんについては「老後を迎えたときの自分へのボーナス」だと思って、目減りしないようにだけ管理を続ければいいのです。

そのうえで未来に目を向け、投資信託などの堅実かつ確実な方法で、きちんと資産を運用していきましょう。