金融機関の窓口や積立投資を紹介する本などでは、一括投資は上級者向けの難しい投資手法と言われがちです。
理由としては以下のようなものが挙げられます。
- 相場を読めないと、リスクが大きくなる。
- 価格の下落に耐えられるメンタルが必要だ。
- 最終的には積立投資のほうが得をしやすい。
しかしこれは本当なのでしょうか。
今この記事を読んでいる人のなかには、定年退職をしたあとの老後資金をどうやって用意するべきかを悩んでいる人も多いはず。
老後資金を作るとなれば、投資期間は20年、30年といった長期に渡ります。
実はそのような場合、一括投資はとても儲けを出しやすい投資手法になるのです。
ここでは「一括投資は上級者向けの難しい投資手法」と言われる主な理由を一つずつ検証し、老後資金を作るための一括投資の可能性について考えます。
「相場を読めなければ一括投資はできない」?
相場を読み間違えれば「短期的には」損をする
上図は、三井住友トラスト・アセットマネジメントが運用する「世界経済インデックスファンド」の基準価額の推移をグラフ化したものです。
2009年1月から運用がスタートし、10年経った2019年10月現在も運用されている投資信託の一つです。
この商品はこの10年間、何度も価格の下落と上昇を経験しています。
「価格下落直前」「最安値時」「価格上昇直前」「最高値時」の4つのタイミングで一括投資をしていたら、いったいどんな結果になるか考えてみましょう。
価格下落直前 | 高値で買うことになるため、大きく損をする。(例:2015年6月ごろ) |
最安値時 | 安く買ったものが高くなっていくため、大きく得をする。(例:2009年1月ごろ) |
価格上昇直前 | 安く買ったものが高くなっていくため、大きく得をする。(例:2012年11月ごろ) |
最高値時 | 価格が下がっていく可能性が高いため、損をする。(例:2018年1月ごろ) |
プロの投資家でも、価格が上がるか下がるかを正確に読み切ることはできません。投資初心者であればなおさらです。
そのため、もし相場を読み間違えて「価格下落直前」「最高値時」に一括投資をしてしまったら、確かに損をすることになります。
相場を読み間違えても「長期的」には得をする
しかし世界経済インデックスファンドの場合、10年という長期の視点で見ると、総じて右肩上がりになっています(赤線)。
もちろん今後どうなっていくかは誰にもわかりません。
しかし少なくとも現時点では、前表の「価格下落直前」「最高値時」に一括投資をしてしまっても、長い目で見れば得をすることがわかります。
つまり相場が読めなくても、選択する商品さえ間違えなければ、一括投資でも最終的には儲けが出せるのです。
「右肩上がりの成長なんて、今後はもう期待できないんじゃないの?」と思うかもしれません。
今の日本に住んでいればそう考えても無理はないでしょう。
ところが内閣府の「世界経済の潮流 2018年」によれば、リーマンショックの時ですら世界の実質経済成長率はほんの少しだけマイナス成長になっただけで、1990年から2018年に至るまでずっと成長を続けています。
経済成長の大きな要因となる人口増加も世界的に進んでいます。
国際連合広報センターのプレスリリースによれば、2019年時点で77億人の世界人口は2030年には85億人(10%増)、2050年には97億人(26%増)、2100年には109億人(42%増)になるとされています。
そのため、国単位、地域単位で見れば経済が伸び悩んだとしても、世界全体で見れば今後も伸び続ける可能性が高いといえます。
したがって短期的な投資においては、たしかに「相場を読めなければ一括投資で損をする」は正しいのですが、長期的な視点に立った場合は、伸びる国や地域、商品に投資できればプロレベルの相場予測は必要ないのです。
「価格の下落に耐えられないと一括投資はできない」?
少しずつ投資総額が増えていく積立投資とは違い、一括投資は運用を始めた時点で大きな金額を投資します。
なので、価格が下落したときの影響もそのぶんだけ大きくなります。
仮に投資総額が100万円なら、価格が4%下落したときの損失額は4万円ですが、1,000万円なら40万円、5,000万円なら200万円になります。
投資に慣れていない人がたった1日でこれだけの損失を出せば、不安になってもしかたありません。
- 「このまま二度と上昇しないのでは?」
- 「今損失を確定させた方が傷は浅いのでは?」
- 「本当にこの商品でいいのか?」
- 「本当に再度上昇に転じるのか?」
そんな疑念が頭の中をぐるぐると回り、不安もどんどんつのります。投資初心者にとってこの不安は、メンタル的にかなりキツいはずです。
たしかに、ここでどんどん増えていく損失額に耐えきれず、損失を確定させてしまったら、一括投資をしたのは「失敗」ということになってしまいます。
そのため価格の下落に耐えられるメンタルを維持できないのであれば、一括投資をするべきではない、といえるでしょう。
しかし、一括投資であろうが積立投資であろうが、価格が下落すれば「どうしよう」と悩むものです。特別「一括投資だから価格の下落に耐えられるメンタルが必要」というわけではありません。
また、あらかじめポイントを押さえていれば、価格の下落時の不安もあまり感じなくて済みます。そのポイントとは、以下の3点です。
伸びる国・地域・商品を事前にしっかりと見極めたうえで投資する。 | 長期的に見れば価格は再び上がってくるため、不安になる必要がない。 |
生活防衛資金(給料3〜6ヵ月分)を確保したうえで投資する。 | 万が一が起きても、備えがあれば「どうにもならない」という状況は避けられる。 |
分散投資の3つのルールのうち、「国・地域の分散」「資産の分散」を実践する。 | 分散投資によってリスクが押さえられるため、大幅な損失が出にくくなる。 |
正しい投資先を選んだら、あとはドンと構えてじっと待つ。それができれば過度に不安になる必要はないのです。
「結果的に積立投資のほうが得をする」?
金融機関の窓口や積立投資を紹介する本、ネットの金融メディアでは、「結果的に一括投資より積立投資のほうが得をすることが多い」と言われがちです。
しかし投資顧問会社「アライアンス・バーンスタイン」は、データを使って「まとまった資金があるのであれば、あえて積立投資をするよりも、一括投資をしたほうが儲けを出しやすい」という分析をしています(※)。
というのも、1987年7月から2017年6月までの30年間を対象に、以下の条件で投資をした場合、最大値、上位25%、下位25%、最小値すべてにおいて一括投資のほうがパフォーマンスが高いことがわかったからです。
- <投資期間>
10年間 - <投資対象>
グローバル株式(MSCI ワールド指数) - <投資金額>
積立投資:毎月10万円を1年間かけて120万円投資。その後の9年間運用し続ける。
一括投資:120万円を一括投資。
したがって、10年単位の長期的な運用をしていくつもりで、かつまとまった資金があるのなら、一括投資は十分検討する価値のある投資手法と言えるのです。
まとめ
相場を大きく読み間違えれば一括投資の損失は大きくなります。
価格の下落にメンタルが耐えきれずに途中で資産を売ってしまえば、損失を確定させただけで終わってしまいます。
こうして見ると、一括投資が積立投資に比べて上級者向けなのは確かです。
しかし老後資金作りのように、運用期間が10年単位の長期になれば、一括投資のほうが「儲かる」確率が高くなるのも事実です。
また投資のすべてを知り尽くしたベテランでなければ、一括投資で儲けが出せないというわけでもありません。
したがって一括投資は、まとまったお金を使って老後資金を作りたいという人にとって、ぜひとも検討するべき選択肢といえるでしょう。
「老後資金のための一括投資」シリーズでは一括投資で資産運用をするための情報を全4回にわけて解説していきます。
一緒に一括投資のコツを学んでいきましょう。