「人生100年時代に合わせた人生設計が必要」「日本の年金制度はまもなく破綻する」などウェブやテレビには老後に不安を感じるような言葉が溢れています。
そんななかで「自分も老後のための生活資金を準備しなきゃ……」と焦りを感じている人も多いのではないでしょうか。
しかし世の中にはそういった心理を突いて、不動産投資詐欺を仕掛ける犯罪者もいます。
騙されれば投資の元手となったお金を失うだけではなく、借金が手元に残ったり、人間関係が犠牲になったりする場合もあります。
こうした事態を回避するために必要なのは、まず相手のやり方を知ること、次に自分のなかの不安との正しい向き合い方を身につけることです。
ここでは不動産投資詐欺の手口を紹介するとともに、騙されないための不安との向き合い方について解説します。
不動産投資詐欺、5つの常套手段
あらかじめ不動産投資詐欺の常套手段を知っていれば、詐欺をしかけられたときにも「あ、これは詐欺だな」と気づくことができます。
不動産投資詐欺には大きく5つの典型的な手法が存在します。すなわち、手付金詐欺・海外不動産詐欺・満室偽装詐欺・地面師詐欺・二重譲渡詐欺です。
以下ではこれらの手口について、一つずつ見ていきましょう。
手付金詐欺
「他の人もこの物件を狙っているので、まずは手付金だけでも払っておきましょう」などと言ってくるケースです。
しかし手付金は契約を前提に支払うものなので、こちらの都合でキャンセルしようとすると契約不履行を理由に手付金が戻ってこない可能性があるのです。
そのため、くれぐれも「キープだけしておいて、やっぱり必要ないと思ったらあとからキャンセルすればいいだろう」と安易な気持ちで手付金を支払わないようにしましょう。
海外不動産詐欺
海外の不動産に詳しい人が少ないのをいいことに、そもそも存在しない不動産を売りつけたり、現地の価格とはかけ離れた金額で売りつけたりするケースです。
たしかに、これから経済発展する国の不動産などは将来値上がりする可能性が高いですが、もし本当に買うのであればより綿密なリサーチをしてから判断するべきです。
満室偽装詐欺
現時点で満室になっているアパートやマンションを見せて「今なら満室ですから、かなりお買い得ですよ」などと勧誘するケースです。
しかし実は詐欺グループのメンバーが仮入居しているだけで、契約が決まった途端に退去して、そのあとは空室だらけ……というのがオチ。
期待していた家賃収入は入らず、残るのは借金ばかりです。
この手口を見抜くのは非常に難しく、他の手口に比べてより慎重に対処する必要があります。
地面師詐欺
地面師とは他人の土地を自分のものだと偽って第三者に売り渡す詐欺師のことです。
そんなことが実際に起こりうるのかと思うかもしれませんが、2017年には大手住宅メーカーの積水ハウスが地面師から63億円を騙し取られています。
専門家とも言える住宅メーカーが騙されるのですから、知識のない一般消費者であればもっと簡単に騙される可能性があります。
この手口を回避するには、土地建物の所有者を確認するとともに、本当にその人が所有者なのかどうかを本人に確かめるなどの対策が必要になります。
二重譲渡詐欺
AさんとBさんに、詐欺グループCが全く同じ不動産を売るという手口です。
二重譲渡が行われた場合、不動産の所有件を持つのは先に登記を終えた方になるため、Aさんが先に登記を終えていた場合は、Bさんは購入代金分を丸々損することになります。
対策としては地面師詐欺と同様、事前の登記内容の確認が有効ですが、仮に現在の所有者やAさんが詐欺グループの一味だった場合は、見極めるのは至難の技です。
不動産投資詐欺はいつも「不安」を煽る
- 今買わないと、他の誰かに買われてしまうかもしれませんよ。
- 現状は満室なので、毎月○○万円の収入になりますよ。
- この物件は将来絶対値上がりするので大丈夫です。
- 老後、不安ですよね。この物件なら将来年金代わりになりますよ。
これらは不動産詐欺の際によく使われるフレーズです。
なかには本当の場合もありますが、安易に信じて物件を購入したら嘘だったというケースもたくさんあります。
その真偽は自分で考えて判断するほかありません。
前述したような手口を知っていれば対策は立てられますが、手口によっては素人では対処できません。
またその場で言葉巧みに勧誘されて騙されてしまう可能性も十分あります。
こうしたフレーズに騙される、おおもとの原因は私たちのなかの不安です。
「年金はどうなるんだ?」「老後の生活は安心できるのか?」そうした不安をかぎつけた詐欺グループがさらに不安を煽り、「この不動産を買えば、その不安を解消できますよ」と言ってくると、つい騙されてしまうのです。
なぜならば、不安を感じているとき、私たちの脳は正常な判断ができなくなっているからです。
不安を感じると、脳はアドレナリンという神経伝達物質を分泌します。
この物質は「闘争か逃走かのホルモン」と呼ばれており、私たちにできるだけ早く目の前の問題を解決しようとさせます。
つまりは冷静に考えず、感覚的に「なんとなく良さそうだ」と思う選択肢を選んでしまうのです。
しかも人間は、目の前に「儲かる話」があると「根拠のない自信」を持つ傾向があることもわかっています。
査読付きのオープンアクセス科学ジャーナル『Science Advances』の2018年vol.4に掲載された論文「コインの両面:金銭的インセンティブは判断への自信を高めると同時に歪める」はこれを実験で証明しています。
この実験とは104人の被験者を対象に、2点の画像を見せて、コントラストのより強い方を答えさせ、そのうえで自分の答えについての自信度を50〜100%の間で評価させるというものです。
被験者たちはこの自信度の精度の良し悪しでお金をもらえるか、あるいはお金を支払うかが決まります。
すると「損をするかもしれない」ということで慎重になり、自信度の精度があがった被験者がいた一方で、自分の評価に自信を持っていた被験者は「儲かるかもしれない」という期待につられて大幅に自信度を引き上げたのです。
こうして科学的に考えてみても、「不安を煽られたところに不動産投資という儲かる話が舞い込んできて、その話にのってしまう」というのは、ある意味で自然な結果なのです。
大切なのは不安の正体を見極めること
こうした事態を回避するためには、おおもとの原因である不安に正しく対処しなければなりません。すなわち不安の正体をきっちりと見極めるのです。
たとえば老後資金の不安を見極めたければ、「いくら必要になるのか」「いつまでに用意すればいいのか」「そのためにはどんな方法があるのか」と不安を分解していきます。
そのうえでリスクの低い資産運用を選ぶべきなのか、それともある程度リスクをとった方がいいのか……と考えていくわけです。
このころには当初感じていた不安は解消され、「自分にとって何を選ぶべきか」が明確になっています。
人間の感情というものは基本的に長時間持続することはありません。
怒りのボルテージは、なんとたった6秒で収まるとさえ言われているほどです。不安も同じです。
そのため「その場で即決せずに、いったん持ち帰って考える」「たとえ確実に信頼できる話であっても、一晩置いて冷静になってから考える」など、自分のなかの不安の正体を見極め、分解する時間を確保するだけで、詐欺グループに騙される可能性も一気に下がるのです。
まとめ
不動産投資詐欺を回避するための方法はさまざまですが、詐欺を働く側もプロですから、付け焼き刃の対策だけでは突破される可能性があります。
どんなに相手の手口に詳しくても、言葉巧みに不安を煽られて、いつのまにかに騙されてしまうかもしれません。
しかし騙されるおおもとの原因である不安との付き合い方を変えることで、そうした事態は防止できます。
いざというときに自分を守れるのは自分だけ。日頃から騙されないための習慣を身につけておきましょう。