
円は世界の通貨の中でも「比較的安全な通貨」とされており、リーマンショックや世界各地で紛争が起こったときなど、世界情勢が不安定になった局面では必ず買われるという特徴があります。
日本は他の先進国に比べて経済成長率も低く、少子化で労働人口も減っています。
また、それに加えて国の借金も多いのに、なぜ世界中から「日本円は安全」と思われているのか疑問に思う人も多いのではないでしょうか。
この記事では、なぜ日本円が安全資産とされているのか、今後もこの流れは続くのかについて解説していきます。
日本人の将来に備えた貯蓄は主に「円」で行われていますが、その円が今後も安定した価値を保っていけるのか、よく考えていきましょう。
円が安全資産と考えられているのはなぜ?その理由を解説
日本円は世界中の市場関係者から「安全資産である」ととらえられています。
そして、「リスクを回避しなければならない」というムードが高まったときには必ず円が買われ、円高になるという仕組みになっています。
最近の円高の原因としては、中国とアメリカ、イランとアメリカの対立が挙げられますが、「リスク回避時に円が買われる」といった現象は最近に限ったことではありません。
イラク戦争や米サブプライムローン問題からのリーマンショック、ギリシャが発端となった欧州債務危機など、世界のどこかで何らかの危機が訪れたときには、常に円が買われてきました。
日本はなぜこのように安全な通貨とされているのでしょうか。その理由は4つ考えられますので詳しくみていきましょう。
主要国の中では日本円が一番評価されている
世界の主要通貨としては、米ドルや円、ユーロ、ポンド、スイスフランがあげられます。
そして、アメリカ、日本、EU、イギリス、スイスの中で、国が安定していて経済力があるとされているのは、アメリカに次いで日本と考えられています。
IMFが発表している2018年度の世界の名目GDPランキングでは、日本は3位となっており、客観的に見ても国の経済力は他国に比べて安定しているといえますね。
順位 | 国名 | 名目GDP(百万ドル単位) |
1 | 米国 | 約18,624,000 |
2 | 中国 | 約11,218,000 |
3 | 日本 | 約4,947,000 |
4 | ドイツ | 約3,477,000 |
5 | イギリス | 約2,647,000 |
出典:総務省統計局 世界の統計2019の第3章 国民経済計算)
中国は経済力では米国に次いで第2位となっていますが、
- 中国は共産主義国であること
- 「通貨バスケットを参考とする管理フロート制」により、中国政府によって中国元のレートがほぼ操作されている状態であること
の2つの理由から、中国元は安全な資産とは考えられていません。
スイスフランは主要な通貨とされてはいるものの、経済規模では15位以内にも入っておらず、経済力が弱いという特徴があります。
ユーロはドルの次に安定していると思われがちではありますが、EU加盟国の中には大きな格差が存在し、それが大きな不安定要因とされています。
ユーロ加盟国は19ありますが、それぞれの国での所得格差が激しく、ギリシャやスペイン、ポルトガルなどの財政不安がある国が含まれています。
このように、加盟国の格差が原因でEUやユーロは安定しておらず、むしろ不安定要素が大きいと考えられていることから、リスクを回避する局面でユーロが買われることはあまりありません。
また、イギリスがEUを離脱する可能性が高まったことで、最近はますますユーロの不安定さに焦点が当たっており、安全資産とは今後も見なされないでしょう。
イギリスは昔から金融大国であり、イギリスがEU加盟後もユーロを導入せずイギリスポンドという通貨を守ってきました。
しかし、プレグジット問題に関連してボリス・ジョンソンがイギリスの首相になったことで、国としての安定が不安視されています。
スコットランドではボリス・ジョンソンを嫌う人が多く、彼が首相になったことで「スコットランドがイギリスから独立することに賛成票を投じる人が増える」と考えられているからです。
今までは僅差で「独立反対票」が多かったのですが、彼が首相になったことで、独立賛成票が反対票を上回るのではと考えられています。
このように、イギリスはプレグジットやスコットランド独立問題で国として不安定な状態ということができ、今後も安定資産と見なされることはないと考えられます。
このように、他の先進国と比較した場合、日本はかなり安定している国ということができます。
円が安全資産として評価されている理由がよく理解できるのではないでしょうか。
世界有数の対外資産を持っている
日本は多額の借金を抱えるとして知られていますが、「世界有数の国外資産を持っている国」としても有名です。
財務省が前年分について公表する「本邦対外資産負債残高の状況」によると、平成30年度末の段階で、約1018兆円の対外資産残高があります。
それに対し、財務省が発表している2019年3月末時点での国の借金は「約1103兆円」とされており、統計上は、国の借金と同じくらいの額の対外資産を持っているということになります。
このように、国の借金は多いけれど、それとほぼ同額の対外資産を持っていることも「日本円は安全資産」と見なされる根拠のひとつとなっています。
クーデターやテロでなどで相場が暴落する危険性がない
日本は治安が良く、安全な国として知られており、過去にクーデターやテロが起こったことがありません。
これからもテロが起こる危険性は限りなく低く、突発的な事件によって日本円が暴落するリスクも非常に低いことも、日本円が安全資産とされる理由となっています。
リスク時に円を買うことで利益を出す機関投資家がいる
リスク回避のムードが高まった時には、金や国債などの債券が資金の避難先として選ばれ、買われることがあります。
しかし、その中でも日本円が「安全資産」として一番買われる傾向にあるため、円高になります。
どうして「リスク回避のための資産」の中でも、日本円が一番選ばれているのでしょうか。
それは、日本円が一番流動性が高いからです。
海外のヘッジファンドなどの機関投資家は、世界情勢が不安定になると感じるとすぐに円を買い、円高になったら円を売って利益を上げるという取引を行います。
ヘッジファンドなどの機関投資家は動かすお金の額が非常に大きいため、流動性が高い通貨を取引する傾向があります。
金やスイスフラン、国債に比べ、日本円は毎日の取引量が多く、注文量がどれだけ多くても「買う場合」「売る場合」両方ですぐに取引を成立させることができるのです。
このような理由で、ヘッジファンドなどの機関投資家はリスク時に買う通貨として、「円」を選んでいます。
これは、円が安全資産という実態ではなく、投機的な理由で円が買われているという一面もあるということを意味しています。
将来、もしも「リスク時に円が買われる」という皆の共通認識が崩れてしまった場合は、円が買われなくなる場合もあるかもしれません。
今後急激な円高は起こる?過去円高になったタイミングはいつ?
2019年に入って円高が続いていますが、円高は日本経済に悪影響を与えてしまうため、注意が必要です。
これから急激な円高が起こるかどうかは不透明ですが、過去どのような状況で円が高騰したのかを理解しておくことは大切です。
リーマンショック
リーマンショックは、2008年にアメリカの大手投資銀行である「リーマン・ブラザーズ」が経営破綻したことがきっかけになって起こった金融不安です。
このことがきっかけで、世界中が「以前の世界恐慌に匹敵する」と言われるほどの不景気に陥ってしまいました。
リーマンショック後は、アメリカが「他国からの輸入を減らし、アメリカの産業を活性化させるため」に、「ドル安政策」を行いました。
ドル安が進むと、日本やヨーロッパなどの他国の製品が割高になり、買いにくくなります。
その結果、アメリカの人は安い自国の製品を買うことになるため、アメリカの経済が活性化していくという仕組みです。
ここで、日本はアメリカに対抗して通貨政策を行わなかったため、極端な円高になり、1ドルが80円を切るほど高騰した日もありました。
東日本大震災
東日本大震災では津波や原発事故などで大きな被害が発生しました。
「有事の円買い」と言われるものの、災害が起こった場所が日本だったため、日本円が売られるのではと考えた人も多かったのではないでしょうか。
しかし、実際には円が買われ、急激な円高が進みました。
この円高の理由は「日本の保険会社が大量の保険金支払いに対応するため、海外資産を売却するのではないか?」という憶測が広まったためです。
もちろん、震災当日に保険会社がすばやく海外資産を売却し、ドルを円に換えることはないのですが、「今後そのような動きが出るだろう」と予測した投資家が、円を買ったということになります。
今後日本で何か大きな出来事があった場合でも、
・日本の企業や日本の投資家が、いったん海外へ投資していた資産を売る(ドルを売り、日本円を買う)
という動きをとると考えられるため、円高になる可能性が高いと覚えておきましょう。
イギリスの国民投票でEUからの離脱を決定
イギリスがEUから離脱するかどうかを決める国民投票で離脱派が勝利と報道された時に、円が買われて円高になりました。
イギリスの離脱によってEUが不安定になると、ユーロも安定しなくなるため、不安定要素が増えたということで、日本円を買うという動きが起こりました。
EU問題は日本とあまり関係がないように見えますが、世界中どこで危機が起きても、まずは日本円が買われるという現象がここでも起きたということですね。
円はいつまで安全資産でいられるか?日本を取り巻く環境の変化
日本円は主要通貨の中では安定していること、過去何らかの危機があったときには円が買われて円高になっているという過去の事実から、今後も「日本円は安全資産」として買われると予想できます。
しかし、日本を取り巻く環境は以前とは少しずつ変化してきています。
- 中国や北朝鮮問題で日本の近くで紛争が起こる可能性がある
- 財政赤字がますます増えている
このように、円のリスクは以前よりも増えてきているといえるでしょう。
近年日本は景気を活性化するために財政出動を行い、「国債をどんどん発行してお金を市場に流し、経済を活性化させる政策」を行っています。
そのため、国の借金がどんどん増えてしまっている状況です。
日本の経済がこの政策により持ち直し、経済が好循環しはじめれば国の税収も上がり、良い結果が生まれます。
しかし、実際は思ったように効果がでておらず、今後景気が上がり、日本の活力が戻るのかという点はまだ不透明な状態です。
円は今は安全資産と思われていますが「景気が下がり経済成長が滞る」「国の借金が膨れ上がり、無視できないほどになる」といったようなことが起これば、日本の円の信頼性は大きく低下してしまうかもしれません。
日本の少子化により労働力が低下 日本の国力が低下する可能性も
日本は財政赤字だけでなく、もう一つ大きな問題を抱えています。それは少子高齢化です。
日本では高齢化が進んでおり、社会保障費が増えて財政赤字が悪化することが心配されていますが、実は「少子化」も高齢化と同じくらい深刻な問題です。
日本の人口は年々減少しており、2050年までに1億人を割ると言われています。
出産率向上のための効果的な政策も実施されていないため、このままでは、30年後に今より人口が2割も減ってしまう可能性が高いのです。
人口が減ると労働力が少なくなり、社会を支えていく人達が減ってしまうということになります。
そして、経済の規模が縮小し、国内需要も減り、日本という国の活力が低下してしまう可能性が高くなることから、「円の価値や信頼性」に悪影響を及ぼすと考えられます。
現在「将来性が大きい」とされている中国やインドは、人口が多い国です。
人口の多さ、とりわけ労働力となる若い人の数が多いかどうかが国の活力に直結するともいえます。
人口が多い国は大きなパワーを発揮することができますが、日本は急激な少子化のため、逆に今後は「国力」が下がる可能性が高くなっています。
国の経済規模が縮小し国力が低下していくと、日本は世界で今のような存在感を発揮することができなくなるため、日本円の信頼性や価値は徐々に低下してしまうと考えられます。
今は円高が続き、円が評価されているものの、10年、20年後には今と全く違う状況になっているかもしれません。
まとめ
日本円はさまざまな理由から「安全資産」とされていますが、将来の見通しは不透明です。
現在は世界情勢が不安定になりつつあり、円高になりやすい状況が続いていますが、日本の財政状況や将来の見通しは厳しいため、「安全な円」とはいつまでも思ってもらえないかもしれません。
現在のような円高が続くと経済がダメージを受け日本の国力も低下していく可能性が高く、その結果、何かをきっかけに「日本円は安全である」という世界の共通認識が崩れてしまう危険性があります。
将来のための資産を貯める場合、長期投資が良いとされていますが、その「長期」の間に予想もしなかったことが起きてしまうことも考えられます。
色々な状況が起きることを想定し、将来への備えとして、リスクをできるだけ抑えるために資産を分散しておくことをおすすめします。