2019年春頃から円高がすすみ、ドルやユーロなどの通貨が売られて円が買われるという現象が続いています。

円高が進むということは「円という通貨が評価されて買われている」ということです。

つまり、「日本円を欲しがる人が多く、その価値が高まっている」ということができます。

しかし、円高が進むと輸出産業が多い日本企業の業績が悪くなる傾向があるため、日本経済に悪影響を及ぼしてしまうこともあります。

円高は長い目で見ると日本という国の力である「国力」を弱めてしまう可能性もあるのです。

日本経済の停滞が長引き、国力が低下すると、将来的には日本円の価値が逆に下がっていく危険性があります。

この記事では、円高が進んでいる理由と円高が経済に与える影響、円という通貨は今後も評価され続けていくのかという3点について詳しく解説していきます。

円高は、生活費や教育費、老後資金として貯めている「円資産の価値」に影響を及ぼす可能性がありますので、円高になる理由や、円高が経済にどのような影響を与えるのかという仕組みについて、しっかりと理解しておきましょう。

INDEX
  1. 今どうして円高が進んでいるのか?その理由を解説
    1. 中国とアメリカの貿易戦争
    2. アメリカの株価をあげるための利下げ政策
    3. 世界情勢が不安定で武力衝突の可能性
    4. アメリカはドル高をのぞんでいない
  2. 円高は日本の将来に悪影響 その理由は?
    1. 日本製品が売れなくなる
    2. 企業が保有しているドルの価値が下がる
    3. 円高になると海外投資家が日本株を売って手じまいをする
  3. 円高が続くと日本の税収が減少 財政がますます悪化か
  4. 円高で日本は瀬戸際に追い込まれる可能性 円の価値は今後どうなる?
  5. まとめ

今どうして円高が進んでいるのか?その理由を解説

円高とドル安過去数十年の間に円高になったことは何度もありますが、その時々によって円高の原因はさまざまです。

円高の原因はひとつではなく、複合的にいろいろな要素が絡み合って円高になっていることが多くなっています。

そのため、「円高が今後日本にどのような影響を与えていくのか」ということを考える場合は、まず現在の円高の原因についてしっかりと理解しておくことが大切です。

それでは、今の円高の原因についてみていきましょう。

中国とアメリカの貿易戦争

2019年春からの円高の大きな原因として、中国とアメリカの貿易戦争が激しさを増していることが挙げられます。

両国が対立するきっかけとなった出来事が「トランプ大統領による中国通信機器大手企業ファーウェイへの制裁」です。

ファーウェイは次世代の技術といわれる「5G」関連分野で圧倒的な技術力を有しています。

そして、これらの制裁はその技術にアメリカが危機感を覚えたからではないかと言われています。

この制裁では、アメリカがファーウェイの通信機器の使用だけではなく、ファーウェイに対する米企業の輸出も禁止するなど、厳しい政策を行ったことから中国が反発し、対立が深まりました。

また、その後も中国からの輸入品に制裁関税を掛けることが決定され、「アメリカの中国つぶし」ともいえるような政策が次々と決定されています。

ここで、中国がアメリカの要望を聞き、対立を収めようとすれば良かったのですが、方の予想を裏切り中国がアメリカと本気で対抗する姿勢を鮮明にしてきました。

そのため、「世界の大国同士が争い、折り合いがつかなかったら今後どうなるのだろうか」という不安から、円が買われる展開となっています。

アメリカの株価をあげるための利下げ政策

トランプ大統領は、アメリカの政策金利を決めるFRBに「利下げ」をするようプレッシャーをかけており、実際利下げが継続的に行われています。

アメリカの政策金利が下がると、米国債のようなドル建ての債券の金利が下がります。

金利が下がるということは、購入者にとっては「ドル建て債券を買うメリット」が低下してしまうことを意味します。

このように米国債の魅力が下がると、米国債を買うためにドルを買う人が少なくなることから、ドルが買われにくくなり、ドル安となります。

ドル安となると、相対的に円の価値が上がってしまうことになるので「円高 ドル安」が進むという仕組みです。

アメリカの株価はトランプ大統領が当選してから一年あまりで約40%も上昇し、2019年7月には史上最高値を更新しました。

しかし、「そろそろ株価も天井ではないか」という声がちらほらと聞こえてきたことも事実です。

上がり続ける株はありませんので、いつかは必ず一旦は下がるでしょう。

しかし、ダウやナスダックの株価がトランプ大統領の支持率が直結しているということもあり、トランプ大統領は株価を下げさせないためにFRB議長に強力なプレシャーをかけ、継続的な利下げを実行させようとしています。

トランプ大統領が再選されるかどうかが決まる「アメリカ合衆国大統領選挙」は2020年11月に行われる予定です。

トランプ大統領が再選されるためには、アメリカの株価が現状維持、もしくは上がっていることが必須とされているため、今後もますます金利を下げる可能性が高く、円高の流れが続くと予想できます。

世界情勢が不安定で武力衝突の可能性

中国とアメリカの貿易戦争が注目されていますが、アメリカとイランの関係も急速に悪化しており、世界情勢が不安定だとされる原因のひとつとなっています。

2019年6月には中東でタンカー2隻が攻撃されましたが、アメリカが十分な証拠なしに「イランのしわざだ」と真っ先に主張しました。

また、2015年に米英独仏中ロとイランで結ばれた「イラン核合意」をアメリカが一方的に離脱し、イランに対する経済制裁を発動させるなど、アメリカとイランの関係は急速に悪化しています。

このようなことが原因で、アメリカとイランの間、もしくはサウジアラビアなど親米の国とイランとの衝突の可能性がゼロとは言えない状況になってきています。

また、イランはアメリカと対立している中国やロシアと関係を深めており、アメリカに対抗する姿勢を見せているため、偶発的な軍事衝突が起こってしまった場合、それが大きな紛争に発展してしまう可能性があります。

イランとアメリカの対立が深まり、万が一軍事衝突が起きれば、世界の原油相場にも大きな影響を与えてしまうでしょう。

この両国の対立で世界情勢は不透明になってきているため、紛争時に買われるとされる円が買われ、円高が進んでいます。

アメリカはドル高をのぞんでいない

アメリカのトランプ大統領は、株価が上がれば大統領の支持率も上がり、次の大統領選も勝利できると考えています。

そのため、ダウやナスダックなどの株価を上げるためには何でもやるという姿勢です。

アメリカの企業にとっても、自国の通貨が安いと輸出品が良く売れるため、企業業績が良くなります。

その結果株価も上がるため、トランプ大統領は株価を上げるための「ドル安思考」を持っているといえます。

以前は過度な円高が進むと「為替介入」といって、日本政府が大規模な「円売り・ドル買い」を行って円高を抑える行動をしていましたが、最近は円高が進んでもそういった介入はありません。

トランプ大統領がドル安を望んでいるため、日本政府としては大統領の意向に反する行動はできないのでしょう。

このように、トランプは株価を上げるためにドル安を望んでおり、その結果「ドル安・円高」が進んでいると考えることができます。

トランプ大統領が現職の間は、当分この流れが続くでしょう。

円高は日本の将来に悪影響 その理由は?

円高が海外貿易に与える影響円高は「円という日本の通貨の需要が高まり、買われる」ということなので、一見日本という国が評価されているように錯覚しがちです。

しかし、現在の円高は、円の価値が評価されているというよりも、今まで説明してきたような「円を取り巻く周囲の状況」によって引き起こされているものであり、「円という通貨」が評価されているわけではないということを理解しておく必要があります。

また、円高は日本の経済にとっては、円高は逆に悪影響を及ぼします。

このままアメリカの事情や世界情勢が変わらなければ、円高の流れは変わらず、結果として日本にとってかなり大きなダメ―ジを受けてしまう可能性が高いのです。

ここでは、円高によって引き起こされる日本への悪影響を3つ紹介します。

日本製品が売れなくなる

日本は輸出産業の割合が多いという特徴があります。

日本企業の多くは日本で製品作り、それを輸出して利益をあげているため、円高は企業業績にマイナスの影響を与えます。

円高になると海外における日本製の製品が割高になり、売れなくなってしまうからです。

日本国内では不景気を脱したと言われているものの、消費者の実感がないため消費意欲が低く、日本でものを売るには限界があります。

そのため、海外でしっかりと製品を売る必要があるのですが、円高になると現地価格が上がってしまうため海外でも製品が売れなくなり、企業の業績に悪い影響を与えてしまうのです。

企業が保有しているドルの価値が下がる

日本企業の多くは海外の企業と取引をしており、スムーズに決済を行うためある程度のドルやユーロなどの外貨を保有しています。

円高になると、それらの外貨資産の円建ての価値が下がるため、含み損になり、財務に悪影響を及ぼします。

もちろん、企業としても想定為替レートを設定し、為替ヘッジを行っています。

しかし、想定よりも大きく為替が変動した場合は、営業利益が大きく目減りしてしまう可能性があります。

例えば、トヨタは1円の円高で400億円利益が目減りすると言われており、為替が円高になるかどうかは非常に大きな問題です。

トヨタや日産、日立製作所、三菱重工業など日本を代表する企業の多くは円高によって営業利益が目減りするため、円高になると業績が悪化し、それが日本経済の回復にも水を指すことになります。

もちろん、部品などの海外調達割合が多い企業では、円高が逆にメリットになる場合もありますが、日本では円高では減収になる企業のほうが多いため、円高は企業業績にとって悪影響が大きいといえます。

円高になると海外投資家が日本株を売って手じまいをする

円高になると、日本の株式に投資していた海外の投資家が株を売って手じまいするという現象が起こります。

例えば、1株1000円の株を保有している場合を考えてみましょう。1ドル100円のときには、株を売ってドルにかえると10ドルを手にすることができます。

しかし、1ドル95円の円高だった場合は、1000円÷95=10.5263・・・となり、円高のときに日本株を売ってドルに換えたほうが、より多くのドルを手に入れることができるのです。

このような仕組みのため、円高になると海外の投資家により日本株が売られやすくなるため、日経やTOPIXがさがり、日本経済に悪影響を与えてしまうことになります。

円高が続くと日本の税収が減少 財政がますます悪化か

円高と日本経済日本はただでさえ多くの国債を発行し負債を抱えていることで有名ですが、円高で株安になることで、ますます日本の財政難に拍車をかけることになります。

円高になると日本企業の業績が悪くなるため、企業が国に納める税金も少なくなります。

その結果、国の収入ともいえる「税収」が下がり、日本の財政がますます悪化してしまうのです。

現在の日本では、収入より支出が多い状態が続いています。

税収だけでは必要なお金が足りないため、国債を多く発行して資金調達を行い、足りないお金をまかなっている状態です。

現状でも赤字財政なのに、今後円高が続けば日本の税収が今よりも大幅に減少し、日本の財政がますます悪化する危険性があります。

日本は対外債務が多い国のため、これほど多くの借金を抱えていても国の信用は現時点では保たれています。

しかし、何かがきっかけで信用が崩れてしまった場合は、「日本の巨額な財政赤字」のため、円の信頼と価値が一気に暴落してしまうリスクがあるということを覚えておきましょう。

円高で日本は瀬戸際に追い込まれる可能性 円の価値は今後どうなる?

円高と株価円高が続くと企業の業績が下がって国の税収が減るという悪循環が生まれてしまうため、日本はますます多くの財政赤字を抱えてしまう可能性があります。

日本の借金が増えると日本の信用力が下がってしまい、「日本の通貨」である円の価値が暴してしまう可能性はゼロではありません。

格付け会社である「S&P」によるソブリン格付けリストによると、日本国債の格付けは先進国の中ではかなり低く、韓国の国債よりも低い格付けとなっています。

このことをみても、すでに日本という国の信用力がじりじりと低下してきているといえるのではないでしょうか。

このような円高が続いている中で10月の消費増税も実行されるため、企業業績はますます悪化する可能性が高くなっています。

海外の投資家の動向では、日本の先行きを見越してか、2019年8月は「買いよりも売りが多い」傾向となっており(参考:日本取引所グループ発表の2019年8月の投資部門別売買状況
日本からどんどんお金が抜けている状況となっています。

また、2019年を通してみても、やはり海外投資家の動向は「売り越し」となっており、海外投資家が日本株を売り、資金を引き上げていることがわかります。

対象年月 海外投資家動(マイナスは売り越し)
2019年8月 約- 5355億円
2019年7月 約-2122億円
2019年6月 約-4267億円
2019年5月 約-5002億円
2019年4月 約1兆6056億円
2019年3月 約-1兆5280億円
2019年2月 約-4178億円
2019年1月 約-3540億円

出所:日本取引所グループ発表の投資部門別売買状況よりお金の窓口作成

このように海外からの資金流入が見込めない状況となると、日本の株価や経済はますます悪化してしまう可能性が高くなります。

そして、万が一日本の財政が立ち行かなくなった場合は、日本という国の信用が崩れ、円の価値が暴落する可能性もあります。

円が暴落するということは今まで貯めてきた資産の価値が暴落してしまうということです。

そのようなことが起こる可能性はもちろん高くはありませんが、今の日本を取り巻く状況を考えると、ゼロと断言することもできないのです。

日本が多額の債務を抱えている以上、最悪の状況が起こる可能性は他の先進国より高いと言えます。

将来を見据えて動くのであれば、一定のリスクを抱えている円だけではなく、他の通貨建ての資産に分散しておく必要があるかもしれません。

まとめ

円高が進んでいる理由はさまざまですが、これからの世界情勢を考えてもより円高がすすむ可能性が高く、それが日本の体力をじわじわと奪っていく可能性があります。

資産運用では株や債券、貯蓄に分散投資することが一番良い方法と言われていますが、投資商品の分散だけではなく、通貨を分散しておくことも有効です。

日本円だけではなく外貨建て資産に分散しておくことで、資産運用におけるリスクをよりおさえることができます。

特に10年、20年という長期投資をする場合は、世界や国の情勢がどのように変化するのか見通せない部分がありますので、万が一のことを考え、日本円以外の資産を保有しておくことをおすすめします。