アメリカやヨーロッパで先行して広がっていたESG投資が、日本でも少しずつ増えてきました。同時に、ESGに積極的に取り組む企業も増加しています。では、ESG投資をすることで、企業および投資家にどのような利益をもたらすのでしょうか。
本記事では、ESG投資の基本事項や特徴を解説します。インパクト投資との違いや、具体的な投資方法も併せて見ていきましょう。
ESG投資の基本事項
ESG投資とは、企業におけるESGへの取り組みを投資の判断材料とする投資方法です。ESGとは、企業の持続的な成長のために欠かせないとされる、以下の頭文字をとったものです。
- Environment:環境
- Social:社会
- Governance:ガバナンス
企業の持続的な成長に欠かせない環境への取り組みとは、環境汚染の防止や植林活動などです。例えば、企業活動のために伐採した森林に苗木を植えるといった活動があります。製品作りにグリーンエネルギーを使用するのも、環境への配慮のひとつだといえるでしょう。
社会への取り組み例は、文化支援や人権保護、疾病・貧困対策などです。一例としては、自動車メーカーが交通安全の大切さを教える場所を設けたり、製薬会社が途上国の公衆衛生の向上に努めたりといった取り組みが挙げられます。
ガバナンスとは、企業内部における統制や監視をいいます。具体的には、社外取締役および社外監査役の設置や、社内行動規範・倫理規定の作成などです。
このようなESGへの積極的な取り組みは、企業にとってイメージアップをもたらします。企業イメージの向上は、本業における業績アップにもつながるでしょう。つまりESG投資とは、社会貢献や企業統治に真摯に取り組むクリーンな企業に投資することで、経済的なリターンを狙っていく投資方法なのです。
ESGへの取り組みは、SDGsの採択から本格化した
ESGへの取り組みは、2015年に開催された国連サミットにおいて「SDGs」が採択されたことにより本格化しました。SDGsは、以下のように定義づけされます。
【SDGsとは】
「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包括性のある社会の実現のため、2023年を年限とする17の国際目標
SDGsで設けられた17の国際目標は、以下のとおりです。
- 貧困:貧困をなくそう
- 飢餓:飢餓をゼロに
- 保険:すべての人に健康と福祉を
- 教育:質の高い教育をみんなに
- ジェンダー:ジェンダー平等を実現しよう
- 水・衛生:安全な水とトイレを世界中に
- エネルギー:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
- 成長・雇用:働きがいも、経済成長も
- イノベーション:産業と技術革新の基盤をつくろう
- 不平等:人や国の不平等をなくそう
- 都市:住み続けられるまちづくりを
- 生産・消費:つくる責任、つかう責任
- 気候変動:気候変動に具体的な対策を
- 海洋資源:海の豊かさを守ろう
- 陸上資源:陸の豊かさも守ろう
- 平和:平和と公正をすべての人に
- 実施手段:パートナーシップで目標を達成しよう
これらの目標からもわかるように、SDGsでは、すべての人が安心して、安全・平等に生活できる社会の実現を目指しています。そしてESGは、SDGsにおける目標を達成する手段として、注目されるようになったのです。
ESG投資のメリットと注意点を知ろう
ESG投資には、どのような特徴があるのでしょうか。ここでは、ESG投資におけるメリットおよび、注意点を詳しく見ていきます。
ESG投資のメリット
ESG投資を行うメリットの一例は、以下のとおりです。
- 長期的に安定した成長が見込める企業に投資できる
- 投資を通じ、社会や環境への貢献ができる
先述のとおり、ESGに取り組む企業は、イメージアップにより社会的信用を得られると考えられます。優良企業と認められることは、長期的に安定した成長を目指すうえでとても重要です。
また、ESG投資に取り組む企業に投資することで、投資家が間接的に社会貢献できるのも、ESG投資の魅力だといえます。自分が共感できる活動をしている企業を、投資先として選定するのも、ESG投資の楽しみ方のひとつです。
ESG投資の注意点
ESG投資をするうえでの注意点は、以下のとおりです。
- 短期的なリターンを狙いづらい
- ESGへの取り組みについて、判断が難しい
ESG投資に取り組む企業は、社会的に問題がある利益の追求や、不透明な企業運営を行いません。つまり、少々の無理をしてでも業績を急伸させるといった経営方針はとらないのです。よって、短期的なリターンを狙う投資には適さないと考えられます。
また、ESGを活用した投資先の選定は、簡単ではありません。ESGについて判断するには、環境や社会情勢について幅広く知っておく必要があります。企業統治に関する知識も必要になるでしょう。
インパクト投資とESG投資の違い
ESG投資と似た投資のひとつに、インパクト投資があります。インパクト投資とESG投資には、どのような違いがあるのでしょう。
インパクト投資の基本事項
インパクト投資は、社会や環境に貢献する技術および、サービスを提供する企業に投資する方法です。投資家は、インパクト投資をすることにより、経済的なリターンだけでなく社会的環境的なリターンを得ることも目指します。
ESG投資との違い
ESG投資とインパクト投資では、基本的な投資方針に大きな違いはありません。なぜならインパクト投資は、ESG投資における分類のひとつだからです。ESG投資は、運用方針などによって、インパクト投資のほかに以下の6つの分類に分けられます。
- ネガティブスクリーニング:武器やギャンブルなど、倫理的に問題がある企業を投資先から除外する
- 議決権行使・エンゲージメント:株主総会の議決権の行使などにより、企業に対しESGへの取り組みを促す
- 規範に基づくスクリーニング:国際的なESG基準に満たない企業を、投資先から除外する
- ESGインテグレーション:財務情報だけでなくESGも含めて分析し、投資を行う
- ポジティブスクリーニング:同業主の中で、ESGスコアが高い企業に投資する
- サステナビリティテーマ投資:サステナビリティ関連企業およびプロジェクトに投資する
サステナビリティとは、地球環境全般における持続可能性のことです。具体的には、再生可能エネルギーや、持続可能な農業、水資源などがあります
ESG投資の現状を知ろう
ESG投資の市場は、年々広がっています。その理由の一例は、以下のとおりです。
- 社会問題・環境問題の顕著化
- 不祥事による業績悪化の回避
ESGが重視される以前は、利益のみを追求する企業が多くありました。これにより、人間の生活が脅かされるような社会的・環境的な問題が発生するようになったのです。それらの問題を解決するために、社会や環境への取り組みが見直されるようになり、ESG投資が広がりました。
また、利益のみを追求した投資をしていると、企業の不祥事により業績が急落するケースもあります。このような状況を受け、投資家はより信頼できる企業を選ぶために、企業統治が重視されるESG投資を取り入れるようになったのです。
では、ESG投資額は実際にどのくらい増えているのでしょうか。世界のESG投資額を集計している国際団体「GSIA」が発表した2018年度の報告をもとに、解説します。
投資額が多い欧州
欧州は、世界でいち早くESG投資が広がった地域です。下表に、欧州におけるESG投資額の推移を紹介します。
項目 | 詳細 |
ESG投資額:2016年 | 12兆400億米ドル |
ESG投資額:2018年 | 14兆750億米ドル |
成長率(ユーロ換算) | 11% |
2018年における欧州のESG投資額は、世界最多となっています。全世界の投資額のうち、約46%を欧州が占めるという結果となりました。
市場が成長を続ける米国
米国は、欧州に次いでESG投資額が多い地域です。米国のESG投資額の推移を、下表に紹介します。
項目 | 詳細 |
ESG投資額:2016年 | 8兆7230億米ドル |
ESG投資額:2018年 | 11兆9950億米ドル |
成長率(米ドル換算) | 38% |
米国における投資額は、2016年から2018年にかけて成長し、2018年には世界の39%を占めるまでに成長しました。
日本でも市場が急拡大中
日本においてESG投資が行われるようになったのは、最近になってからです。日本でのESG投資額の推移は、下表のとおりです。
項目 | 詳細 |
ESG投資額:2016年 | 4740億米ドル |
ESG投資額:2018年 | 2兆1800億米ドル |
成長率(円換算) | 307% |
2018年の日本のESG投資額は、世界の7%にとどまっています。しかし、2016年から2018年の間に投資額は3倍以上に増加しており、今後の市場の広がりが期待されます。
ESG投資をするには?投資方法を紹介
ESG投資をしたい場合、どのような方法があるのでしょう。最後に、具体的なESG投資の方法を、3つ紹介します。投資目的やリスク許容度、投資経験などにより、自分に合った投資方法を選びましょう。
個別の企業に投資
ESG投資をする方法の1つ目は、ESGに取り組んでいる企業の株を購入する方法です。ESGに積極的に取り組む企業は、ホームページやプレスリリースなどにより、積極的に実績や成果を発表しています。
成長性を感じる企業や、ESGの取り組みを応援したいと思える企業を見つけたら、株を購入し直接投資をしましょう。株を購入することで、値上がり益を狙うだけでなく、株主優待などを楽しめるメリットもあります。
なお、株式は値動きの幅が大きい金融商品です。そのため、売買のタイミングによっては、購入時よりも低い価格で売却したことによる元本割れを起こす可能性があることは、知っておきましょう。
投資信託を活用
ESG投資の2つ目は、投資信託です。投資信託は、多くの投資家から資金を集め運用会社が運用し、利益を分配金として投資家に還元する金融商品です。投資信託を活用してESG投資をしたい人は、ESGをテーマにしたファンドを購入しましょう。
投資信託のメリットは、少額から始められる点と、運用を専門家に任せられる点です。また、国内外の複数の企業に投資するため、1つのファンドに投資するだけでも、分散投資の効果を得られます。このように、投資できる資金が少ない人や投資初心者でも始めやすいのが、投資信託の特徴だといえます。
投資先を一つに限定せず、複数の資産にわけて投資することです。これにより、値下がりなどにより資産が減るリスクを分散する効果があります
なお、投資信託の基準価額も、毎日変動しているため、元本割れの可能性があります。損失が出るタイミングで解約をしないためには、使い道の決まっていない資金で投資をすることが重要です。
グリーンボンドも考える
グリーンボンドとは、国内外のグリーンプロジェクトに必要な資金を調達するために発行する債券です。発行体には、企業や地方自治体などがあります。
グリーンボンドのメリットは、投資家が応援したい企業やプロジェクトに、直接投資できる点です。また、債券は通常、償還(満期)まで保有すれば元本と金利を受け取れるため、元本割れのリスクが低い点も特徴のひとつです。
ただし、債券の発行元が破綻してしまった場合は投資額が戻ってこない可能性もあるため、投資先の選定をきちんと行ったうえで投資しましょう。
まとめ
ESG投資は、社会や環境への貢献および、企業統治を重視する企業に投資する方法です。ESG投資の中でも、特に社会的環境的な活動を重視した投資方法を、インパクト投資といいます。
ESG投資をするメリットは、持続的な成長が見込める企業に投資できることに加え、経済的リターンだけでなく社会的リターンも得られる点だといえるでしょう。
ESG投資は欧米からスタートしましたが、近年は日本でも市場が拡大しています。新たな投資を考えている人は、分散投資のひとつとしてESG投資をしてみてはいかがでしょうか。