ファイブフラッグセオリー(5本の旗理論)とは、世界のどこの国にも課税されない状態を作り出すことを理想として提唱された個人の資産形成のための理論です。起源を辿れば1980年代には既にファイブフラッグセオリーの原型となる理論が考案されています。

世界の国々の多くは、国家の形を維持するために増税を続けています。特に先進国の税制は、納税者にとって年を追うごとに大きな税の負担を強いるものになっており、日本でも2019年は消費増税の年となりました。

このような世界的な増税のトレンドに真正面から対抗して、税金を払わないという選択肢を選べば「脱税」という違法行為になってしまいます。各国の税務当局の監視の目は厳しくなっていますので、違法行為であればいつかは必ず摘発されます。

一方のファイブフラッグセオリーでは、脱税や節税などの法律に抵触する可能性のある行為を避けて、プライベートや仕事などのあらゆる活動を「非課税」にすることによって合法的に課税されない状態を作り出すことを目指しています。

あくまで理論上の話ですから実行することは難しいですが、ファイブフラッグセオリーとはどのような理論であるのかについて詳しく解説します。

この記事は「「ファイナンシャルフリーダム」への王道!完全なる経済的自由を手に入れる方法を解説」の補足として、詳細な解説を行うために執筆したものです。

INDEX
  1. 「ファイブフラッグセオリー」と「永遠の旅行者」
  2. 国に縛られない生き方を実践するための5本の旗
    1. 1本目の旗「国籍」を持つ国
    2. 2本目の旗「資産」を運用する国
    3. 3本目の旗「自宅」を持つ国
    4. 4本目の旗「事業」をする国
    5. 5本目の旗「休暇」のための国
  3. ファイブフラッグセオリーまとめ

「ファイブフラッグセオリー」と「永遠の旅行者」

永遠の旅行者

ファイブフラッグセオリーを完全に実行することによって、現在の生活で支払っている所得税や住民税、消費税などのありとあらゆる税金を非課税にすることができます。せっかく稼ぎだした収益から最大40%を超えるような納税を行わなくて済みます。

キャピタルゲインへの課税がなければ資産運用の効率は飛躍的に上がりますし、法人税がなければ再投資や設備投資に充てられる資金が増えます。また、消費税がなければ普段よりも10%も多い買い物をすることができます。

しかし、このような理想と現実の間にはギャップがあります。

世の中にはさまざまな病気を治すための特効薬に近いものがありますが、あまりに効果の高い薬にはどうしても副作用があります。ファイブフラッグセオリーは「非課税」という税金に対する特効薬ですが、副作用として「永遠の旅行者」である必要が出てきます。

永遠の旅行者とは、その名の通り、ずっと旅を続けることを強いらる人々のことを言います。1週間程度の旅行であれば多くの人が楽しいと感じますが、永遠に旅行し続けなければならいと聞けば「そんなのは嫌だ」と思う人も少なくないでしょう。

日本における「永遠の旅行者」

日本では一時期、永遠の旅行者というライフスタイルが羨望の眼差しで見られていた時期があります。今から20年ほどまえの西暦2000年前後のことで「ずっと旅をしながら税金を納めずに楽しく生活できる」というようにファイブフラッグセオリーのデメリットをあたかもメリットであるように情報が拡散されました。

もちろん、旅行好きの一部の方にとっては、ずっと旅行を続けられることは人生の理想の姿なのかもしれません。しかし、半ば強制的に移動を強いられることについては、もう少し現実的にメリットとデメリットを判断する必要があるでしょう。

ファイブフラッグセオリーの実践者がどうして移動が強いられるのかを含め、ここからは5本の旗の詳細について解説を進めます。

国に縛られない生き方を実践するための5本の旗

ファイブフラッグセオリーの5本の旗

ファイブフラッグセオリー(5本の旗理論)の名前は、さまざまな活動の拠点として5つの国を選択することに由来しています。どうして5つの国なのかというと、世界の国々が徴収している税金の種類が大別すると5種類あるからです。

  1. 市民税
  2. 資産税
  3. 住民税
  4. 法人税
  5. 消費税

これらの5種類の税金がかからない状態を作ることがファイブフラッグセオリーの目標なのですが、全てが非課税の状態を1か国で実現しようとすると、政治的に危険な状態にある国や、カリブ海の何もない島などのいわゆるタックスヘイブンに移住しなければなりません。

タックスヘイブンとなっている国というのは、基本的に税制をゼロにするくらいしか国としての魅力がない国ですので、実際に日々の生活を送ることは現実的ではありません。

そこで5種類の全ての非課税を1か国で実現するのではなく、5つの国に分散しようというのがファイブフラッグセオリーの基本的な考え方になります。

では、具体的にどのような旗をどのような国に立てるべきなのかについて見ていきましょう。

1本目の旗「国籍」を持つ国

日本人にとっては馴染みがありませんが、国籍を持っているだけで市民税として税金を徴収する国があります。

例えばアメリカが市民税を重視している国で、アメリカ人は世界のどこにいてもアメリカ国籍であることを理由に課税されます。収益が発生して手元に入るまでの流れに一切アメリカが関わっていなくても、とにかくアメリカ国籍であればアメリカ政府から課税されます。

アメリカのような税金の考え方を「属人主義」と言います。課税の根拠が人にあるので、国籍とリンクして課税がされるのです。

一方の日本は「属地主義」を採用しています。つまり、日本で生活をしていたり、日本で仕事をしている人に対して課税するという考え方です。このため、日本国籍を持つ私たちが日本政府への納税をしない状態を作るには、日本で生活せず、日本で仕事をしなければ良いのです。

とはいえ、属地主義である日本の税務当局は、なんとか日本で生活していると認定し、なんとか日本で仕事していると認定しようと、税制の抜け道を塞ぐための努力を続けていますので、日本で住んでいないという「非居住者」の要件を満たすことは非常に難しいです。

もちろん、日本の税金を払いたくないという目標を達成するためだけなら、日本国籍を捨てて他の国の国籍を取得すれば良いです。しかし現実的には、世界最強クラスの利便性を誇る日本のパスポートを捨ててまで他の国の国籍を取得することはデメリットの方が多いです。

日本の「非居住者」になるための要件については、別の記事で詳しく解説していますので詳しくはリンク先をご確認ください。

間違いだらけの日本の非居住!日本の居住でなくなるための要件とは

2本目の旗「資産」を運用する国

続いて2本目の旗は、資産運用を行う国です。これは資産税に対応するもので、日本では固定資産税やキャピタルゲインに対する税が該当し、これらの種類の税金が非課税の国を選択することになります。

ただし、資産を運用する2本目の旗を立てる国を選ぶには、税制だけに注目していてはいけません。金融システムが機能していない国や、周辺国からの攻撃のリスクが高い国の場合には、課税はされないものの資産そのものが消滅してしまう恐れがあるからです。

しかし、この2本目の旗については意外とすぐに見つかります。なぜなら、国外で発生した収益については非課税という国が、世界には無数にあるからです。

金融システムがしっかりとしている国を挙げれば、日本人にお馴染みなのは香港やシンガポールなどです。香港での投資や資産運用については別記事にまとめていますので、参考にしてください。

香港で投資を始めるための基礎知識を分かりやすく詳細解説

3本目の旗「自宅」を持つ国

続いて3本目の旗は、自宅を持つ国です。少し難しい言い方をすると「法律上の居住地となる国」ということになります。住民税をはじめとした個人の収入に対する課税がない国を選択することになります。

この3本目の旗は、日本人にとっては非常に重要なものです。最初の1本目の旗で説明した通り、日本の税制は「属地主義」をベースとしているため、日本以外に居住していることを証明できなければ日本での課税義務が生じてしまいます。

つまり、住民税などの個人の収入への課税がない国を選ぶことが第一の目的ではありますが、住民として登録することが容易である国ということも、日本人にとっては重要な要素になります。

いわゆる永住権を獲得するためのプログラムは多くの国で用意されているのですが、これらのプログラムでは数千万円から数億円の投資を行うことが条件となっているため、2本目の旗と切り分けるのが難しいのが現実です。

会社を設立して一定額の資本金を用意することで居住権が与えられたり、同じく会社を設立して一定の売り上げを上げることで居住権が与えられたりする国がありますので、投資家向けの永住権プログラムよりも起業家として居住権を獲得する方が低コストで済むことが多いです。

4本目の旗「事業」をする国

4本目の旗は、会社を設立して事業を行う国です。日本の法人税のような事業収益に対して課税される税金がない国を選択します。

以前は、この4本目の旗をどのように立てるのかについて多くの人たちが苦労していましたが、インターネットが登場してからは事業の所在地が曖昧であることも多く、パソコンひとつで仕事ができる人たちが増えてきましたので、比較的容易にクリアできる項目となっています。

この旗を立てるべき国は、大前提としてタックスヘイブンであること、そして法人の設立コストや維持コストが安い国であることが望ましいです。法人税が非課税の国であっても、実際に法人を設立しようとすると許認可に大きなコストがかかったり、現地人の最低雇用人数が設定されていて毎月の給料支払い義務が生じる場合があります。

また、一概に事業といっても世の中にはさまざまなタイプの会社や業種がありますので、それぞれの事業について細かく分析して、自分の営む事業が課税対象となっていない国を選ぶ必要があります。

世界には、インターネット事業による収益には課税がされない国や、観光客が数多く参加するパックツアーの販売による収益は課税されない国など、国ごとに特色のある非課税プログラムがあります。

5本目の旗「休暇」のための国

最後の5本目は、休暇を過ごすための国です。休暇に対応する税金と言われてもピンとこないかもしれませんが、例えば消費税や酒税などが休暇のための税金に該当します。

ただし、消費税や酒税、たばこ税などは多くの国で採用されていて、全てを非課税にすることは現実的ではありません。このため、最近のファイブフラッグセオリーでは、5本目の旗について非課税を追い求めるよりも、そもそも物価が安い国であることを重視する傾向にあります。

たとえ毎回の買い物に対して消費税がかけられたとしても、物価が安ければ生活コストが全体的に下がりますので、課税を意識する必要がなくなるからです。

日本人にとってお馴染みの国で、物価が安く過ごしやすい国としては東南アジアのタイが一番人気です。このところ徐々に物価が上がっていますが、日本食レストランが街のあちこちにあり、日本語で対応してくれる病院があるなど、ゆったりとした生活を実現するための条件が整っています。

ファイブフラッグセオリーまとめ

ファイブフラッグセオリーまとめ

いかに自分の生活の全てを非課税にするのかをテーマにして考案されたファイブフラッグセオリーは、各国政府による度重なる増税によって再び脚光を浴びています。

しかし、5本の旗について詳しく解説した通り、れぞれの旗をしっかりと立てるためには何年もの時間を要し、それなりのコストがかかることも覚悟しなければなりません。

そして、多くの国では半年以上の滞在によって居住者として認定され、さまざまな収益に対する納税義務が発生します。このため、ファイブフラッグセオリーは「永遠の旅行者」という副作用を覚悟して実践しなければならないということになります。

「とにかく税金だけは払いたくない!」という強い覚悟がある方にとっては挑戦してみる価値があるかもしれませんが、現実的に5本の旗を立てるほどの覚悟を持てる人は限られています。

ですから、ファイブフラッグセオリーそのものは机上の空論に近いものではありますが、税金や納税について考えるときには常に話題にあがる理論なのです。

さて、税金を回避するための努力をするよりも、しっかり稼いで、しっかり納税しましょう。