日本での税金の支払いを避けるために「非居住」の状態になろうとする方が多くいる一方で、あまりにも多くの方が「非居住」となる要件について間違った認識のままでいます。しかし、居住と非居住では納税すべき税金に大きな差があるため、税務署から指摘されて初めて間違いに気付いては遅すぎます。

グローバル化が進展した現在では、居住と非居住の線引きが曖昧になっているのは事実で、一般的な認識では日本に非居住の状態となることは、さほど難しくないと思われています。

しかし、日本の税収を増やすことが存在意義である国税庁は、非居住であると認定するための厳しいルールを設けており、監視を強化しています。このため、一般的な認識とは裏腹に、日本に非居住であると認定されることは非常に困難です。

過去に出された判例などを参考にしながら、間違いだらけの日本の非居住に関する認識について詳しく解説します。

この記事は「「ファイナンシャルフリーダム」への王道!完全なる経済的自由を手に入れる方法を解説」の補足として、詳細な解説を行うために執筆したものです。

INDEX
  1. 日本の「非居住」になることのメリットとは?
  2. 「非居住」に関する間違い5つ!
    1. 「非居住」の間違い1:180日以内の日本滞在ならOK
    2. 「非居住」の間違い2:住民票を外したらOK
    3. 「非居住」の間違い3:ずっと海外にいるからOK
    4. 「非居住」の間違い4:海外法人を立てたからOK
    5. 「非居住」の間違い5:日本の税金は全て払わなくてOK
  3. 日本の非居住に関する要件と間違いのまとめ

日本の「非居住」になることのメリットとは?

非居住のメリット

日本の所得税法では「居住者は、所得が生じた場所が国の内外を問わず、そのすべての所得についてわが国において所得税を納める義務がある」と定めています。いわゆる属地主義と呼ばれる税の概念です。

属地主義とは

居住している場所(土地)によって納税義務が発生するという税制に対する考え方です。

対義語は属人主義です。居住している場所を問わず、国籍によって国民に対して課税するものです。アメリカは属人主義を採用している代表的な国で、アメリカ国籍者は世界のどこで生活をしていてもアメリカ政府によって課税されます。

つまり、この所得税法の文言の裏を返せば、日本の非居住者は日本で税金を納める義務が発生しないということになります。このため、日本の税金を払いたくない人々は非居住者になることによってメリットを得ようと考えるのです。

税金の種類 居住者 非居住者
所得税 5%~45% 10.21%
※日本源泉の所得のみ
法人税 15%~23% 法人設立国の税率による
消費税 10% 10%
※一部免税の適用あり
住民税 10% なし

また税金以外では、非居住者になることによって公的年金と保険の支払い義務がなくなることにもメリットを感じる方がいます。個人の収入に占める年金と保険の割合は比較的おおきなものですので、これらの支払い義務がなくなるだけでも生活が随分と楽になることでしょう。

「非居住」に関する間違い5つ!

非居住の間違い

日本の所得税法には「「非居住者」とは、居住者以外の個人をいい、日本国内で生じた所得(国内源泉所得)に限って所得税を納める義務があります。」と書かれています。非居住者について説明した文章は、この一文だけです。

国内源泉所得とは

日本国内での労働や投資、事業によって発生したあらゆる所得のことを指します。

日本の企業との取引によって生じた報酬や売り上げ、日本国内で所有している不動産の賃貸収入などが含まれます。また、ロイヤリティや著作権などの権利による収入も、日本国内の取引先などから収入が得られた場合には国内源泉所得となります。

非居住者であれば国内源泉所得以外の所得税を支払わなくて良いということは分かりますが、いったいどのような条件を満たせば非居住者となるのかについては具体的な説明がないのです。

非居住であることの条件に関する間違いの多くは個人の認識の甘さだとは思いますが、法律に明確に示されていないことも混乱が生じている理由のひとつです。

一般的に通説として広まっているものの間違いだらけである「非居住」について、ひとつひとつ詳しく解説していきます。

「非居住」の間違い1:180日以内の日本滞在ならOK

非居住に関する最もおおい間違いは、半年以内(180日以内)の日本滞在で、その他の期間を海外で過ごせば「非居住」だと認定されるというものです。

さきほど紹介した通り、法律には日数に関する規定は一切書かれていませんので、180日や半年というような滞在日数によって居住か非居住かを判断されることはありません。

「非居住」の間違い2:住民票を外したらOK

滞在日数だけでは非居住だと認識されないという知識がある方が間違いがちなのが、住民票を外すことによって「非居住」だと認識されるだろうというものです。

住民票を外すことによって、公的年金や保険などの支払い先がなくなるため、税金についても納税義務がなくなると誤解してしまうのが原因のようです。

しかし、現実的に納税について考えた場合、住民票を抜いただけで納税義務がなくなるのであれば、日本の大富豪たちの多くは住民票を抜いて課税を免れるでしょう。もちろん、こんなことは許されませんので、住民票を抜くことと「非居住」には直接的な関係がありません。

「非居住」の間違い3:ずっと海外にいるからOK

半年(180日)以内の滞在ではダメで、住民票を外してもダメであっても、ずっと年間を通して海外に滞在していれば「非居住」になるだろうと考える方もいます。

しかし、過去の判例では、間違いなく1年以上を海外で過ごしていたのにもかかわらず、非居住者として認められなかった事例があります。

例えば、マグロ漁船などの遠洋漁業の船員として1年以上ずっと海外で漁をしていた方であっても、裁判所では国税庁の訴えを認めて、非居住に該当しないとの判決が出されました。

平20.6.5、裁決事例集No.75 155頁

外国船籍のまぐろ漁船の船員である審査請求人に対して外国法人から支払われた給料などについて、国税庁が請求人は居住者であり給与所得に該当するとして所得税の更正処分を行った裁判。

請求人は「非居住者」であるから、国内源泉所得ではないので所得税は課税されないとして、この処分の全部の取消しを求めましたが、裁判所は請求人である船員の主張を認めませんでした。

参考:判例詳細(国税不服審判所)

日本に居なければ「非居住」だろうという認識を持つことは理解できますが、税金の絡む法律上の「非居住」の認定については違う結論が出されています。

「非居住」の間違い4:海外法人を立てたからOK

日本に居ないだけでは不十分であれば、どこか海外の国に法人を立てれば「非居住」だと認めてもらえるだろうと考える方もいます。これも気持ちは分かりますが、現実的には間違いです。

過去の判例を見てみると、海外法人の代表として勤務していた方が、病院への通院や出張などの理由で帰国した時に妻の住む家を拠点としていたことなどから「非居住」と認められなかった事例があります。

平成23年10月24日裁決

国外の法人の代表者であった審査請求人が、平成21年分の所得税について、外国法人から受け取った給与及び日本の公的年金等の各所得の確定申告をした後、請求人には国外に生活の本拠があり、非居住者に該当するので、国内源泉所得以外の給与所得等の金額を総所得金額から減額すべきであるとして更正の請求をしたところ、国税庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人が、その処分の全部の取消しを求めた事案です。

日本国内での病院への通院の事実や、生計を一にする妻の居住地などの生活に関わる客観的諸事情を総合的に勘案して、請求人の平成21年中の生活の本拠は日本にあったと認定しました。

参考:判例詳細(国税不服審判所)

海外に法人を持っていることや、海外の法人に勤務していることが非居住であることを主張するひとつの要件にはなりますが、これだけでは不十分であるとの認識が必要です。

「非居住」の間違い5:日本の税金は全て払わなくてOK

最後は「非居住」の認定の条件ではなく、「非居住」になった場合の納税に関する間違いをひとつ紹介しておきます。

非居住であれば日本の税金は一切支払わなくていいという認識を持っている方が、あまりにも多いです。

しかし、日本の法律に唯一書かれている非居住者に関する説明にある通り、国内源泉所得については所得税の納税の義務があります。どれだけ頑張って日本の非居住を勝ち取ったとしても、日本国内の企業との仕事などで生じた収入には課税されますので十分に注意してください。

日本の非居住に関する要件と間違いのまとめ

所得税法の条文だけでは明確ではない非居住者の定義ですが、過去の判例をひとつずつ確認していくことで、満たすべき条件を知ることができます。

非居住の判定項目 要件を満たすための目安など
日本国内の滞在日数 一般的な180日という基準はさておき、現実的には年間で合わせて90日以下であることが好ましいです。ただし、あくまで滞在日数は参考程度の要素でしかありません。
生活場所、生活の状況 寝起きをしている場所についての項目です。日本の滞在時に無償で宿泊できる場所があることで、居住者とみなされることがあります。
職業、業務内容、従事状況 いわゆる収入源に関する項目で、居住と非居住の認定では最も重視されます。日本での滞在や営業活動が収益発生の大きな理由となっている場合には、居住とみなされる場合が多いです。
生計をひとつにする親族の居所 扶養の義務のある家族の生活場所については重要なポイントとなります。単身赴任で海外に滞在している状態では、非居住とみなされることは難しいです。
資産の所在 主に不動産について厳しく確認がされます。自宅として不動産を所有していることは居住とみなされる大きな要因となり、その他にも自己利用を前提とした資産があることで居住と認定されることが多いです。
生活に関わる各種届出状況等 実際に寝起きをする「生活の場所」だけではなく、銀行や公的機関、定期購読物の受け取りなどに指定している住所が日本国内にあることで、居住とみなされることが多いです。

では、どうすれば非居住とみなされるのでしょうか?

明確な定義はありませんが、単一ではなく先程挙げた全ての項目をクリアしている場合は非居住と認められる可能性が高いです。

それぞれの項目ごとに比重が違いますが、ほぼ全ての項目と条件を満たせば「非居住」、逆にどれか1つでも引っかかることで「居住」となります。

つまり、この記事で間違いであると指摘した内容については、実際にはそれぞれが「非居住」と認定されるための条件のひとつではあります。しかし、ひとつでもクリアすれば良いというものではないということが重要です。

将来的に日本の非居住となることを目指している方は、じっくりと時間をかけることによって、確実にひとつひとつの条件をクリアしていかなければなりません。日本は判例主義が色濃い裁判が行われるため、個別具体的な「非居住」の認定については過去の判例を確認することが有効です。

そして、これまでの判例についても確認しながら全ての条件をクリアしたとしても、法律の穴を埋めるために国税庁が活動していますので、常に最新の状況に対応し続ける努力が求められます。