海外投資をするなら最初に見ておくべき2つの指標でも解説したように、国家としての信用は投資判断に大きな影響力を持っています。
特定の国の国債に投資をする場合はもちろんのこと、政治と経済には密接な関係があるため、その国の企業や不動産などに投資をする場合も同様です。
しかし国家の信用と投資判断の関係性が、具体的にイメージがつかないという人も多いのではないでしょうか。
そこでここでは、16〜17世紀に当時のオランダが経験した黄金時代と衰退期の流れを解説することで、両者の関係性を見てみましょう。
オランダの黄金時代を作った「国家としての信用」
同国はヨーロッパの大半を支配下に置き、南北アメリカ、フィリピン諸島、アフリカ、アジア沿岸部などにも広大な領土を持っていました。
一方オランダは資源も乏しく、領土も狭く、スペインが確立した大帝国の片隅で細々と生きる小国でした。
しかしキリスト教宗派の違いを理由に勃発したオランダ独立戦争(※)が終わる頃、オランダは当時の海路を牛耳っていたスペインとポルトガルに取って代わり、ヨーロッパで最も経済力のある国になっていたのです。
なぜスペインは衰退し、オランダは発展したのか。両国の大きな違いは、国家としての信用力を大切にしたかどうかにありました。
(※)80年戦争とも呼ばれる。1568年から1648年にかけて起きた。
資産を奪ったスペイン政府
スペインもオランダも、戦争をするためにお金が必要だった点は同じです。
しかしスペインはオランダ以外にもフランスやトルコなどと絶えず戦争しており、より資金が不足していました。
しかもスペイン王は戦争資金を商人などから借り入れていましたが、それらを踏み倒すどころか、平然とさらなる資金提供を半ば強制的に要求したのです。
こうした振る舞いを商人をはじめとする投資家たちは許しませんでした。
次第に資産を持つ人たちはスペインから出国し、同国の財政はジリ貧になっていきます。
資産を育て、守ったオランダ政府
一方オランダも投資家たちから資金提供を受けていましたが、同国は返済の期限にきっちりと約束のお金を用意しました。
そのため投資家たちは喜んでオランダ政府に融資を行いました。
また裁判所が王室の支配下にあるスペインと違い、オランダは司法と行政を完全に分離していたため、「王室の命令があったから強制的に資金を提供しなければならない(あるいは、借金の踏み倒しを受け入れなければならない)」ということがありませんでした。
結果オランダは国家としての信用を高め、多くの資金を集めます。
資金は海運通商、海軍の増強に投入され、みるみるうちにオランダをヨーロッパ一の経済国に成長させました。
- オランダ政府に融資をすれば高い確率でお金が増えて戻ってくる、という信頼感
- 問題が起きたときも、独立した司法により資産を守ることができる、という安心感
オランダが黄金時代を迎えられたのは、こうした投資家が安心して儲けられる環境を作ったことに大きな要因があるのです。
なぜオランダ黄金時代は終わりを告げたのか?
ところが一時はヨーロッパの覇権を握ったオランダも、17世紀半ばごろから衰退が始まります。
アメリカの金融理論家ウィリアム・J・バーンスタイン氏は著書『「豊かさ」の誕生―成長と発展の文明史』のなかで、同国衰退の原因として以下のような項目を挙げています。
- 人口増加率の伸び悩みと、30年戦争終結による近隣諸国の死亡率低下。
- 国内外市場の独占が常態化したことによる経済の不活性化。
- 貿易偏重の経済による国内産業の停滞。
- 低金利国債による借金漬けの財政。
- 中央銀行等の不在による金融行政の未熟さ。
貿易に頼りきっていたオランダの経済は、イギリスが「航海法」をはじめとするオランダ締め出し政策を取ったこともあり、衰退していきます。
同時に日本などの貿易相手国の銀の産出量が減少し始め、頼みの綱である海運通商にも陰りが見え始めます。
1664年にはオランダ西インド会社がアメリカ大陸に確保していたニューアムステルダム(現在のニューヨーク)がイギリスの攻撃によって奪われ、衰退の速度を加速させていくのです。
海外貿易も振るわず、戦争をしても技術力不足で勝てず……オランダのこうした状況を見た投資家たちが抱いたのは「オランダはもうダメだ」という直感です。
かつてはスペインよりも国家としての信用を重視したおかげで手に入れた覇権でしたが、今度はオランダが国家としての信用をなくし、投資家たちの資金提供を受けられなくなってしまったのです。
その後ヨーロッパの経済の中心は、18世紀半ばに産業革命を起こしたイギリスへと移っていきます。
16〜17世紀オランダが黄金時代から衰退期に至る一連の流れは、国家の信用が投資家の判断と一国の経済にどれだけ密接に関わっているかを表す典型的な例と言えるでしょう。
まとめ
オランダは国家としての信用をおろそかにしたスペインとは違い、自国の信用を第一にお金を扱ったからこそヨーロッパの覇権を握りました。
しかし信用の低下を食い止められなかったために、同国の黄金時代は終わってしまいました。
国家として繁栄し、経済成長を遂げるためには、投資家や海外からの信用がものを言うのです。
人口の減少、市場の硬直化など、衰退前のオランダと現在の日本には多くの共通点が見られます。
こうした歴史的な観点で考えると、今でこそ日本は世界でも有数の信用力を誇っていますが、20年後、30年後も同じ状態が続くかは大いに疑問です。
そのため投資をする際は内国債や国内株式、国内不動産にばかり注目するのではなく、各国の信用力に注目し、これからも成長を続けるであろう国の国債や株式、不動産にも視野を広げていく必要があるでしょう。